野球の概念を覆す大谷翔平と若武者・PCAの熾烈を極めるナ・リーグMVP争い (3ページ目)
【9月にカギを握る「投手・大谷」という切り札】
おそらく「野手としての価値」だけを比べるなら、現時点ではPCAに分があるのではないか。『FOX Sports』は「今、投票するならPCA」とする論評を掲載した。シカゴの人気スポーツコラムニスト、ジョン・グリーンバーグも主張する。
「史上最高級の選手が誰かという話なら大谷だ。しかし2026年という1シーズンに限れば、守備、走塁、打撃のすべてで毎日のように貢献し、重要な場面で何度もカブスを勝利に導いているのはPCA。ならば、なぜ彼がMVPではいけないのか」
グリーンバーグは今のPCAに、シカゴ・ブルズのデリック・ローズが2011年にNBAのMVPに輝いた時と重なる「物語と勢い」があると見る。当時22歳だったローズは、絶対的な存在だったレブロン・ジェームズを抑えて受賞した。「新しいスター」の登場を待望する空気と、シーズン後半に高まっていく勢い。今のPCAにも重なるものがある。
だが、大谷にはまだ、PCAには絶対に持てない切り札が残されている。「投手・大谷」である。今季は14試合に先発し、8勝2敗、防御率1.79という圧倒的な数字を残した。左膝の痛みで7月3日を最後に登板から遠ざかっているが、再びマウンドに上がり、ペナントレースが佳境を迎える9月に圧倒的な投球を見せれば、MVP争いの構図は一変する可能性がある。
大谷自身も17日、「慎重には進んできている。最短で帰れるようにはもちろん思っています」と早期復帰への意欲を示した。そして先発としてポストシーズンで投げるイメージについて聞かれると、「もちろんそれはイメージしています」としたうえで、「先発の数も多くいますし、誰がポストシーズンで先発するかというのも、特に3、4枚目以降はわからない状態ではあると思う」と語った。
ドジャースの充実した先発陣を考えれば、大谷の投手復帰を無理に急ぐ必要はない。しかし、MVP争いという観点から見れば話は別だ。大谷が投手として再び圧倒的な価値を積み上げれば、レースの構図が変わる。その大谷は18日、復帰へ向けて2度目のブルペン投球を行った。2イニングを想定し、立ち投げも含めて計51球。今後はライブBP(実戦形式の打撃練習)を経て、実戦復帰を目指す。
スポーツブックメーカー『DraftKings』の最新のMVPオッズでは、PCAが-115、大谷が-105。つまりPCAに115ドルを賭ければ的中時の利益が100ドル、大谷なら105ドルで100ドルとなる計算で、現時点ではPCAがわずかながら本命に立っている。
9月になれば、MVPオッズも米国メディアの評価も、何度となく入れ替わるのだろう。だが、この争いの面白さは、どちらがMVPを手にするかだけではない。大谷を追うことで、PCAがさらにPCAらしくなる。そして若き挑戦者に追われることで、大谷もまた、言葉ではなくプレーでその挑戦を受け止め、大谷らしい最高の姿を見せようとしている。
24歳の挑戦者と32歳の王者。互いの存在が互いの最高を引き出す。野球ファンにとって、これほど楽しみな9月はない。
著者プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。
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