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野球の概念を覆す大谷翔平と若武者・PCAの熾烈を極めるナ・リーグMVP争い (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Hideki Okuda

【MVPに対するふたりの考え方】

 ただ、打撃の急成長だけで、ここまで大谷を追い詰めることはできなかった。PCAには大谷にはない、もうひとつの大きな武器がある。それは、中堅守備だ。

 PCAの守備が特別なのは、単純に足が速いからではない。打球が飛んだ直後の反応と加速が突出している。MLBのデータ分析サイト『Statcast』によれば、最初の3秒で平均的な外野手より約1.5メートル多く正しい方向へ進む。だからこそ、普通の中堅手には届かない打球にも追いつける。OAA(平均値からどれだけアウトを増やせたかを示す守備指標)は昨季+24でメジャー1位タイ、今季も+23でトップに立つ。ドジャースのディノ・エベル外野守備コーチも「PCAは打者と投手の特徴を理解し、どこへ打球が飛ぶ可能性があるか分かっている。自分の近くに飛んできた打球はすべて捕ろうとする」と絶賛する。

 そのPCAに大谷とのMVP争いについて尋ねると、「MVPのことを考えて球場に来ることはない。打席に入る時も、それを考えることはない。だからといって、そのことを考えるのを避けているわけでもない」と話し、大谷の存在については、こう続けた。

「大谷のようなすばらしい選手を追いかけるのは、いいモチベーションになる。彼と同じMVPの話題に名前が挙がるだけで光栄。大谷がやっていることを本当に尊敬している」

 だが、尊敬と遠慮は別物らしい。実際、インタビューをした翌5日の直接対決では、ふたりがそろって本塁打を放った。大谷が初回、10球粘った末に一発を放つと、その裏にPCAは初球を仕留めた。この日、DHで出場していたPCAに、エベル・コーチが「毎日センターを守れないくせに」と冗談を飛ばすと、PCAもすかさず「でも、お宅の選手(大谷)は10球かかったけど、僕は1球だったよ」と切り返した。

 王者への敬意を隠さない一方で、勝負となれば一歩も引かない。そんな負けん気の強さも、この24歳の魅力なのだろう。

 一方、シカゴでPCAとのMVP争いについて尋ねられた大谷は、「すばらしい選手だと思うので。ただ、自分のやることに集中したい」と答えた。それがモチベーションになるかと問われても、「あんまり今の段階で気にしていることはなくて、数字は上がったり下がったりするものですし。その時によって有利かどうかも変わってくるので」と冷静だった。ただ、ドジャースのデーブ・ロバーツ監督は、ふたりの競争がもたらす相乗効果を感じている。

「ピート(PCA)が競争を面白くしていることは、野球界にとってすばらしい。そして正直に言えば、誰かが翔平を追いかけ、プレッシャーをかけることで、翔平自身もさらによくなると思います」と期待した。

 本人はあくまで「自分のやること」に集中する。それもまた大谷らしい。ただ、PCAが猛追するなかで最近のプレーを見ていると、言葉でライバル心を示すのではなく、グラウンドで結果を返す、そんな王者らしい凄みも感じられる。

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