「超人」大谷翔平はリハビリと打者の「二刀流」 大ベテランが証言する投手のケガ頻発の理由とは (2ページ目)
【技術の進化、速球への探求が肩ヒジの負担に】
8月10日もそうだった。メジャー登板4試合目の25歳の若武者、ドジャースのリバー・ライアンがピッツバーグ・パイレーツの剛腕ポール・スキーンズとの投げ合いで、最速98.33マイル(157.3キロ)で5回途中まで4安打無失点と投げ勝っていた。だが、実は3回くらいから前腕に違和感が出て、イニングの合間にマッサージでほぐしていたのだが、5回に容態が悪化。この試合の56球目、投げたあとに顔をしかめる。デーブ・ロバーツ監督とアルバートトレーナーがすぐにベンチを飛び出し、ライアンの続投志願にもかかわらず、降板させた。翌日MRI検査で右ヒジ損傷が見つかり、シーズン終了と発表されている。
ライアンは、大学時代は二刀流の選手だった。2021年にパドレスにドラフト11巡指名され、マイナーで遊撃手、二塁手として育成される予定だった。しかしドジャースはライアンの投手としての才能に目をつけ、2022年3月にトレードで獲得し、投手として育て直した。今年はマイナーで8試合に登板し24.1イニングを投げて、防御率2.22の好成績を残していた。
ただしチームは今季、ライアンをメジャーデビューさせる予定ではなかった。ドジャースが11人の先発投手がケガで負傷者リストに登録されてしまったため、デビューを早めるしかなかった。ライアンはその期待に応え、4試合で防御率1.33、彼の先発した試合は、ドジャースはすべて勝ち、首脳陣も大喜びだった。しかし、たったの4試合でライアンのシーズンが終わった。
なぜ、こんなにケガや故障が多いのか? かつてメジャーの先発投手は、長いイニングを投げるために、力を入れるところと抜くところを作るのが普通だった。だが、それがこの10年で大きく変わった。メジャー19年目、41歳のジャスティン・バーランダー(ヒューストン・アストロズ)は、次のように証言する。
「大きな要因はピッチングスタイルが変わったこと。みんなが1球1球、目いっぱい、より速く、よりスピンさせて投げようとしている。自分の場合は、2016年にメジャー球が飛ぶようになり、非力な打者でも反対方向に本塁打を打てるようになり、アプローチを変えないといけないと悟った。打たせて取るのではダメ。空振りを取らないと通用しないと思うようになった」
ドジャースのブランドン・ゴームスGMはライアンについて、「パドレスにいたときに、彼が優れたアスリートで肩も強いことに注目していた。投手に専念すれば成功する可能性が高いとみてトレードで獲得した。うちのストレングス&コンディショニングスタッフや選手育成スタッフと連携し、現在のレベルにまで育成できた」と8月9日に、うれしそうに話していた。
投手に専念させて2年ちょっとなのに、直球が速くなり、スライダーやカーブも空振り率30%を超え、ほかにシンカー、チェンジアップ、カッターも投げられる。これはピッチデザインのおかげだ。近年、高速カメラなどテクノロジーを利用し、握りや腕の振り方を改良し、効率的により強力な直球や変化球を習得できるようになった。
だが、それが肩ヒジに負担を与えている。ドジャースはドラフトで優れた人材を指名し、上手に育成する。しかし、そういった投手が次々にケガをする。その防止策は見当たらない。ゴームスGMは12日、「メジャーリーグ全体で見ても、この2、3年間、ケガがまったくなかった先発投手は非常に少ないのが現状。私たちは引き続き、選手を健康に保つための方法を模索し、さまざまな要因を考慮して取り組んでいくしかない。球界全体で改善策を見つける必要がある」と話していた。
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