「超人」大谷翔平はリハビリと打者の「二刀流」 大ベテランが証言する投手のケガ頻発の理由とは (3ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【3度の大手術を経て活躍するベテラン投手の哲学】

 そんななか、興味深い話をしてくれたのが、ドジャースのベテランリリーフ投手、ダニエル・ハドソンだ。メジャー15年のキャリアで、右ヒジ側副靱帯再建術(通称トミージョン手術)を2度、左膝前十字靭帯断裂手術が1度と、計3度も大手術を受けている。一方で通算531試合に登板し、65勝44敗、41セーブ。2019年、ワシントン・ナショナルズ在籍時は、ワールドシリーズの胴上げ投手となった。彼は自らを「ケガのエキスパート」と呼ぶ。そして今の野球界ではケガは避けられず、それを受け入れてキャリアを送るしかない、と説く。

「MLBのピッチングのレベルは年々上がっている。そこでクビにならずに雇い続けてもらおうと思えば、球団に評価されるようなピッチングができないといけない。つまり速い球を投げられないといけないし、空振りを取れる変化球を投げないといけない。だから投手にケガをしないように速い球を投げるなというのはまったく現実的な話ではない。速い球を投げることがアウトを取るための手段で、お金にもつながる。この流れは変えられない。これが現実だ」

 ケガは避けられないから、大事なのはケガをしたときに、どれだけ適切な処置を受けられるか。つまり球団のバックアップだ。昨オフ、ハドソンがドジャースとマイナー契約で残留を決めたのは、ここのメディカルスタッフならベストのケアを受けられると信じたからだ。

「ドジャースには2018年、2022年、2023年といて、彼らがとてもよくしてくれた。ありがたいことに、ここ数年は腕のケガはないけど、足とか、身体のほかの部分に問題があった。それでも、すごくよくケアしてくれた。医療スタッフは優秀だし、コーチ陣ともしっかり連携が取れている。リハビリやフィジカルセラピーを受けるにはここが最適で、ほかのチームには行きたくなかった」と説明する。

 ハドソンはまた、若いチームメートの相談にも乗る。29歳の先発投手、ウォーカー・ビューラーは2度、右ヒジ側副靱帯再建術を受けているが、「昨年の夏にアリゾナでリハビリで一緒になり、長い時間を一緒に過ごした。リハビリは精神的にも肉体的にもきつい。良い日があったかと思えば、悪い日になったり、その繰り返し。どんな悩みがあったかをいろいろ話すことで、彼にとってもよかったと思う」と振り返る。

 さて、そのハドソンに大谷の今年のリハビリについて聞くと、目を丸くしていた。

「率直にすごいなと思う。私は打撃の専門家ではないけれど、打撃でももちろんヒジを使っている。翔平がヒジのリハビリを行ないながらバッティングで打ちまくっているのは、投打の二刀流で大活躍しているのと同じくらい、私には衝撃的だ。

 その日の早い時間に投手のリハビリをこなし、そのあとに打撃や走塁のための準備をする。それで、リーグの本塁打王で、盗塁も33個を決めて、フォーティ・フォーティ(40本塁打・40盗塁)のチャンスがある。超人、本当にユニコーン(神話や伝説の生き物)だと思う」

 大谷は今年、打者だけでもMVPレベルの活躍で、仮に投手を断念したとしても、スーパースターでい続けられる。それなのに、辛抱強く、投手のリハビリを続けている。

 そのことについてハドソンは、敬意を払う。

「大きな手術から復活するのは本当に大変なこと。私にはよくわかる。それだけに翔平がまた投げたいという強い気持ちを持ち続けることには頭が下がる。そして心から応援したい。来年は投打にスーパースターのプレーが見られる。本当に楽しみ」。

 現状、投手のケガは避けられない。それをわかっていても再びマウンドを目指す大谷。敬服するだけなのである。

プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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