山本由伸が離脱したドジャース先発投手陣 苦しい台所事情のなか、トレード期限までの補強も含めて建て直しを模索中か (2ページ目)

  • 奥田秀樹●取材・文 text by Okuda Hideki

【投手全体にケガの多い背景とは?】

 ドジャースは短縮シーズンの20年に世界一に輝いたが、以後3年連続でポストシーズンを勝ち進めていない。敗因のひとつは、先発投手だ。なぜドラフトも育成も上手で、好投手をたくさん輩出し、他球団にうらやましがられるチームの投手陣が足りなくなるのか。背景には球界全体で投手のケガが、非常に多くなっていることがある。

 近年、生体力学の研究が進み、年々速球のスピードが上昇。高速度カメラやデータを生かし、切れ味鋭い変化球を習得しやすくなった。その一方でこういった威力のある球を投げる投手は、生身の身体が持ちこたえられず、ケガも急増している。『ロサンゼルス・タイムズ』紙のジャック・ハリス記者は17年以降、ドジャースがメジャーに昇格させた10人の先発有望株たちはメジャー在籍期間中、肩やヒジを痛め、45%以上を負傷者リストで過ごしていると報じた。日数にすると、1700日にも上る。

 そのため、21年はトレードデッドラインでワシントン・ナショナルズから3度のサイ・ヤング賞に輝いた大物マックス・シャーザーを獲得した。しかし37歳になっていたシャーザーは腕の疲労でナ・リーグ優勝決定シリーズ第6戦では投げられず、ブレーブスに競り負けた。

 22年はトミー・ジョン手術で離脱したウォーカー・ビューラーの穴を埋められず、地区シリーズでダルビッシュ有らのいるパドレスに敗退した。23年はトレードデッドライン前にシカゴ・ホワイトソックスから不調のランス・リン(現セントルイス・カージナルス)を獲得したが、地区シリーズのアリゾナ・ダイヤモンドバックス戦でカーショーともどもノックアウトされている。

 今年のトレードデッドラインは7月30日。果たしてどうするのか? 山本の役割を期待するのだから、中途半端な投手はいらないし、レベルが高くないといけない。

 今のところ、市場の最大の目玉商品はホワイトソックスの左腕ギャレット・クロシェットだ。18試合に先発し、101.1イニングを投げ、6勝6敗、防御率3.02。奪三振数141個はリーグトップである。6月24日はドジャース相手に先発、6回途中まで投げ、5安打無失点、6奪三振だった。大谷も3打数無安打、2奪三振と打ち取られた。15チームが関心を示していると言われており、当然ホワイトソックス側は見返りにトップクラスの若手有望株を要求してくるだろう。

 しかしながら彼には懸念がある。実は先発転向1年目で、これまで一番多く投げたのは21年、リリーフ投手としての54.1イニング。ゆえに今季はすでに倍近く投げている。メジャーではこういう場合、後半戦では投球数を大幅に制限する。だからドジャースがクロシェットを獲得し後半戦も引き続き投げてほしければ、本人の不安を払拭すべく、契約延長を提案する必要がある。ややこしいのだが、ポストシーズンでぶつかるライバル球団に行かれてしまっても困る。

 アンドリュー・フリードマン編成部長率いるフロントは、残り約3週間、難しい決断を迫られている。

著者プロフィール

  • 奥田秀樹

    奥田秀樹 (おくだ・ひでき)

    1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。

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