大谷翔平とドジャースは「王朝」を築けるか ワールドシリーズ優勝へ見本となる球団は?
大谷翔平とロサンゼルス・ドジャースは、ポストシーズンを制して王座に就くことこそが最大の栄誉と捉えている。後編では、近年のMLBで王朝を築くことの難しさとその背景、そしてレギュラーシーズンの成績に関係なく、ポストシーズンで強さを発揮している球団のチーム編成や戦略を考察しつつ、大谷とドジャースの意気込みをあらためて紹介する。
大谷翔平&ドジャースの未来考察 後編
世界一こそが成功――大谷とドジャースは王朝を築けるか? photo by Getty Imagesこの記事に関連する写真を見る
【21世紀のMLBで連覇はゼロ】
これからの10年間、どうすれば"大谷ドジャース"は目標を達成できるのだろうか。レギュラーシーズンのドジャースはすでに完ぺきなチームと見なしていい。優れた組織で、潤沢にお金があり、ドラフト指名も上手だし、育成にも長けている。優れたコーチングスタッフを揃え、他球団で力を発揮できなかった選手を再生させるのもお手の物だ。選手層は厚く、この7年間で5度も100勝以上を挙げている。ゆえにターゲットはひとつだけ。エプスタインが「運」と言ったポストシーズンを勝ち進み、何度もワールドシリーズで勝つこと。MLB史に残る「王朝」を築くことだ。
MLBの長い歴史において、いくつかのチームが王朝を築き上げた。その中で最強と呼ばれるのが1949年から53年のニューヨーク・ヤンキースだ。ワールドシリーズ5連覇を成し遂げている。しかしながら当時のポストシーズンはワールドシリーズだけ、つまり両リーグの覇者同士の戦いだけだった。それが今では両リーグで計12チームも出場し、地区シリーズ、チャンピオンシップシリーズ、ワールドシリーズと勝ち上がっていくのは容易ではない(第3〜6シードチームはワイルドカードシリーズが加わる)。最後の連覇は1998年から2000年のヤンキースの3連覇。21世紀になってから連覇は一度もない。
そして野球という競技の特性も勝ち上がることを難しくしている。公式戦で最高勝率を残したポストシーズンの第1シードチームがチャンピオンになる確率は、決して高くない。NBAは第1シードの66.2%がNBAファイナルを制している。NFLは第1シードのチームが53%の確率でスーパーボウルで勝っている。一方MLBでは、ポストシーズンにワイルドカードチームが含まれるようになった1995年以降、第1シードが勝てたのは29シーズン中12度、わずか41%だ。なぜかといえば、ゲームの仕組みが違うからだ。
バスケットボールでは第4クォーターの勝負どころでは、ロサンゼルス・レイカーズのレブロン・ジェームスのような看板選手にボールを委ね、シュート機会を集中させられる。アメリカンフットボールでは攻撃の要であるクォーターバック(QB)が常にボールを持ちパスを投げ、時にはボールを持って走る。つまり、両競技とも主要選手が常に得点に絡む機会がある。一方、野球は一番良い打者でも他の8人の打者と同じで、自分の番を待つしかない。巡り合わせが悪いと打線はつながらない。
そして投手力についていえば、22年のドジャース投手陣はフリードマンの作ってきたチームの中でも質量ともにベストで、ゆえにレギュラーシーズンは111勝と他球団を圧倒した。しかし地区シリーズは最大5試合の短期決戦な上に、移動日は休みになるため、層の薄い投手陣でも対抗できる。たとえば、パドレスはダルビッシュ有、ブレイク・スネル、ジョシュ・ヘイダー、ロベルト・スアレスらの限られた投手の活躍で3勝1敗と番狂わせを演じた。
1 / 2
プロフィール
奥田秀樹 (おくだ・ひでき)
1963年、三重県生まれ。関西学院大卒業後、雑誌編集者を経て、フォトジャーナリストとして1990年渡米。NFL、NBA、MLBなどアメリカのスポーツ現場の取材を続け、MLBの取材歴は26年目。幅広い現地野球関係者との人脈を活かした取材網を誇り活動を続けている。全米野球記者協会のメンバーとして20年目、同ロサンゼルス支部での長年の働きを評価され、歴史あるボブ・ハンター賞を受賞している。