2020.01.18

秋山翔吾のドラフト秘話。
衝撃のホームランと家族の絆のエピソード

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko
  • photo by Kyodo News

 このバッターがプロで通用しないわけがない――。かつて秋山翔吾を見て、そう確信した瞬間があった。

 2010年6月12日、大学野球選手権大会。この日、神宮球場で八戸大(現・八戸学院大)と東洋大が対戦した。東洋大のマウンドには、左腕エースの乾真大(元巨人)が上がっていた。その年のドラフトで日本ハムから3位指名されてプロ入りすることになる快腕である。

シンシナティ・レッズと契約した秋山翔吾。背番号は4に決まった 八戸大が1点リードされて迎えた2回表、4番を打つ秋山が打席に入った。いつもはネット裏かダグアウトの上あたりから見ているのだが、その時はたまたま記者席にいた。神宮球場の記者席はネット裏のグラウンドレベルよりも低い位置にあるため、やや見上げるような角度になる。

 この日、初めての対戦で乾の投じたストレートが秋山の胸元を突いた。すごかったのは、次の一瞬だ。踏み込んで打ちにいこうとした秋山が、とっさに背中を反らせてスイングしたのだ。この動きによって、自分とボールとの間に空間ができる。秋山はその空間を利用して、思う存分ボールを引っぱたこうとしたのだ。

 そしてフルスイングから弾き返された打球が、センター方向に飛んだからまた驚いた。普通なら、苦しまぎれにライト方向に引っ張るのがやっとのインコース高めである。それがハーフライナーとなってバックスクリーンのわずか右に着弾した。ただでさえ打つのが難しいインコース高め。それをセンターに打ち返し、しかもホームランにしてみせた。

「こいつがプロで活躍しなくて、誰が通用するんだ......」

 秋山の打球を見て、ひとりつぶやいていた。

 のちに秋山と話をした際、「あんな見事な技術は、プロでもなかなか見られない!」などと、こちらが熱く語っても、当の本人は「たしかにうまく打てたと思いますけど......」と、なんともフラットな反応しか返ってこない。喜びすぎず、騒ぎすぎず......いつも「オレなんてまだまだ」といった控え目な姿勢は、当時も今も変わらない。