イチローが「勝敗に関係なく打ちたかった」シアトル凱旋弾への想い (5ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Getty Images

 去年、メジャーのパワーピッチャーが投げ込んでくる150キロを超えるストレートに対応するため、これまでイチローのバッティングの特長だった「手を出すのは最後」だという命綱を手放して、「手が早く出るような状態を作って、手を出してみた」というイチロー。100分の1秒単位の違いが結果を左右する世界で、手を早く出そうという意識が作り出せるのは0.0何秒のわずかな時間なのかもしれない。それでも手を早く出そうという意識がスイングの軌道を短くし、ボールを捉えるまでの時間短縮に成功したことがイチローのV字回復を実現させた。イチローは去年、こんなことを言っている。

「なに? V字回復って(笑)、え、言われてるの? V字回復......でもUよりはいいか、だってUのほうが下の部分が長いからね。Vは短いでしょ。そう考えたら、Vは悪くないですよ。長いこと、野球をやっていたら、Vくらいはあるよねって(笑)。それがUだったら問題だし、Lだったらそのまま終わっちゃう。戻ってくることが大事だと考えれば、Vは一番いいじゃないですか」

 去年、V字回復を果たしたイチローは、今年、さらなる右肩上がりを見据えて、これまでになくバットのヘッドを走らせようとしているように見える。そのことをぶつけてみたら、イチローはこう言った。

「それは、いくつかのことをやっていますよ。具体的には言わないですけど......」

 具体的に言わない何かが、いったい何なのか......それをあれこれ考えるのが、イチローを見続ける醍醐味でもある。いくつか、仮説はあるが、それをイチローにぶつける機会はいつ巡ってくるか、わからない。

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