岩隈久志の独特のリズム感を作ったある捕手の存在

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エースの響き~ブルペン捕手・中谷仁が見た「超一流の流儀」
岩隈久志(2)

 中谷仁です。私は今、子どもたちに野球を教えながら、自分自身も勉強の日々を送っています。私は選手、ブルペン捕手として16年間プロの世界に身を置いてきました。阪神、楽天、巨人、さらには2013年のWBCで数多くの超一流と呼ばれるエースたちの球を受け、彼らの凄さを知ることができました。これまで私が彼らと過ごした貴重な時間を振り返り、彼らの人間性、能力の高さに迫りたいと思います。前回に続き、メジャーで2年連続2ケタ勝利を挙げたシアトル・マリナーズの岩隈久志についてお話しさせていただきます。
(前回の記事はこちら)

今やマリナーズにとって欠かすことのできない存在となった岩隈久志今やマリナーズにとって欠かすことのできない存在となった岩隈久志

 メジャーに行っても、日本の時と同じように活躍しているクマ(岩隈)。ピッチングのレベルの高さは当然ですが、もうひとつ彼の特長として挙げられるのがテンポの良さです。クマが持つ独特のリズム感が、メジャーの打者を困惑させていると思うのです。そのクマの独特のリズム感を生んだのが、あるひとりの捕手でした。それは残念ながら私ではなく、藤井彰人さん(現・阪神)です。

 キャッチャーにはいろいろなタイプの人がいます。「オレのリードについて来い」とリーダーシップを取る人。大きなアクションでピッチャーを盛り上げる人。打者の動きに目を光らせ、冷静なリードでピッチャーを引っ張る人。そしてクマ(岩隈)とバッテリーを組んでいた藤井さんは、ピッチャーのリズムを最優先し、決して主張しないタイプでした。

 たとえば、厳しいコースをボールと判定された時、ミットを動かさず「今のボール?」という態度は絶対に取らない。ボールと判定されても、「大丈夫。お前だったら、絶対に打ち取れる」という感じで、すぐにピッチャーに返球します。

 楽天時代、野村克也監督(当時)から、「ピッチャーがあれだけ一生懸命投げているんだから、それに対してリアクションしてやれ!」ってよく言われました。なので、何もリアクションせずピッチャーに返す藤井さんを見て、「その1球にこだわりはないのか」と、野村監督が厳しく言うこともありました。でも藤井さんは、ピッチャーを信じ、リズムを作ることを最優先していました。それに藤井さんはキャッチングがうまく、スローイングもいい。おまけにワンバウンドの球は絶対うしろにそらさない。「オレは裏方。お前が気持ちよく投げられればいい」というキャッチャーでした。

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