投球フォームは瓜ふたつ?稀代の名投手と田中将大の共通点 (2ページ目)

  • 福島良一●解説 analysis by Fukushima Yoshikazu photo by Getty Images

 しかし、シーバーは「ドロップ・アンド・ドライブ投法」といって、下半身をしっかり沈めて投げるフォームだったのです。大多数のメジャーリーガーが長身を生かして高い位置からボールを投げるなか、シーバーは重心を低くして投げていました。その結果、シーバーの右ひざはマウンドにこすれ、いつもユニフォームを黒く汚していました。こんなにも下半身を目いっぱい使って投げる投手はメジャーでは珍しい。この投げ方が、非常に田中投手の投球フォームと似ているのです。

 また、ふたりが投げる「球質」も似ていると思います。シーバーの最大の武器は、バッターから見ると浮き上がってくるように感じる速球「ライジング・ファスト・ボール」でした。ただ、その球速は当時の速球王ノーラン・ライアン(1966年~1993年/カリフォルニア・エンゼルスなど)ほど速くなかったようです。スピードガンが普及していなかった時代なので、何キロ出ていたかは分かりませんが、シーバーのウリは「球の速さ」ではなく、「球のキレ」だったと言われています。このような「キレのある球質」を評価されている点も、田中投手は似ていると思います。田中投手の速球も、スピードではなくキレで勝負しているように感じます。

 他にも似ているところは、ともに「クラフトマン(技巧派)」だという点ではないでしょうか。シーバーは速球を投げる際に、スピードを変化させて投げていたと言われています。同じ速球でも微妙に変えることで、バッターのタイミングをずらしていたのです。田中投手のピッチングを見ていても、要所で相手バッターとのタイミングをずらして打ち取っています。このような点も両者に共通点を感じました。

 さらに例を挙げるならば、「勝率の高さ」でしょうか。通算311勝205敗のシーバーは、勝率.603を残しています。1969年に世界一に輝き、1973年にはリーグ優勝も果たしましたが、必ずしも常勝チームとはいえないメッツでこれほどの高い勝率を残しているのは驚異的です。一方、田中投手も楽天時代は通算99勝35敗で勝率.738、メジャー1年目の今シーズンもこれまで8勝1敗で勝率.888と、高い勝率を残しています。両者とも、「負けない」というイメージの強いピッチャーではないでしょうか。

 田中投手は現在、ア・リーグ6位となる88奪三振を記録しています。このままのペースで三振を奪っていけば、シーズン200奪三振も十分可能でしょう。対するシーバーは、1968年から1976年まで9年連続200奪三振以上を記録しています。1970年4月22日のサンディエゴ・パドレス戦では、メジャー記録となる10連続奪三振という快挙を演じたこともありました。そのパドレス戦では1試合19奪三振という当時のメジャー記録も樹立。メジャー歴代6位となる通算3640奪三振を残したシーザーの姿に、田中投手を重ね合わせたくもなります。

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