田中将大、全試合QSの安定感を生む「逆転の発想」 (4ページ目)
いや、決してスプリットがよくなかったわけではないと思う。確かに田中が言うように、彼の中ではベストピッチではなかったのかもしれないが、ストレートをアウトローにコントロールできていれば、あのスプリットでも空振りを取れていたはずだ。そして、田中はそんな状態であっても、決して試合を決する失点を喫しない。
田中がミルウォーキーで投げていた、まさにその頃。
1000マイル離れたテキサスで、ダルビッシュ有が、あわやノーヒット・ノーランという快投を演じていた。そのピッチングについて、田中は「僕は無理ですね……ああいう圧倒的なピッチングはできないので、これからも泥臭く、抑えていきます」と話した。
泥臭く──。
まさに、これが田中の最大の武器なのかもしれない。ストレートのコントロールがこれほどまでにままならなくても、QS(クオリティスタート、6回以上投げて自責点3以内)はメジャーデビュー以来、7試合、途切れることはない。ひとつ、思うに任せないことがあっても、別の引き出しを開けて、点を与えない。田中が以前、こう言っていたことがある。
「その時によって体調が違えば、同じようには投げられない。その時、その時で何項目か、チェックポイントはあった方がいいと思います。それを自分の中で試しながら、今日はこういうことを意識しようと、毎回、考えながら投げています」
ピッチャーの仕事は、いいボールを投げることではなく、点を与えないこと。
とりわけ、メジャーではその発想が重んじられる。いいボールを投げたいという美学を持ち続けている日本のピッチャーは多い。いいボールを投げれば打たれないし、いいボールを投げれば点も取られないと考えがちなのだが、点を取られないためにどんなボールを投げるべきなのかという、日本人にとっては逆転の発想を、田中は持っている。
だから田中将大は、ストレートへのこだわりはないと己に言い聞かせているのかもしれない。
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