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田中将大、全試合QSの安定感を生む「逆転の発想」 (3ページ目)

  • 石田雄太●文 text by Ishida Yuta
  • photo by Getty Images

 その高いストレートを、打ち気に逸(はや)るブリュワーズ打線はことごとく仕留め損ない、ゴロの山を築いた。高く浮いていたといっても、ボール球になるわけではないし、力もある。そのストレートを見逃して追い込まれると、今度は低めにくるボール球のスプリットに手を出してしまい、空振りの三振を喫する。ゴロ、ゴロ、 三振と、一見、危なげのないピッチングに見えたかもしれない序盤の田中のピッチングは、じつはかなりの“失投”を含んでいた。試合後の田中も、こんなふうに話している。

「序盤、スイスイ行きましたけど、相手に助けられているなと思っていました。だから(相手バッターも)3巡目になると最初とは違うなという感じでしたし、僕の投げる球自体、中途半端で、ここぞというとき、よし、これで大丈夫だと確固たる自信を持って投げられるボールがありませんでした」

 確かに3巡目になって、ブリュワーズの上位打線は田中のボールを見極めるようになってきた。ストレートが低く来ないということは、低く来るボールはスプリットだとイメージしやすくなる。4点をリードした6回、1番のカルロス・ゴメスに落ちないスプリットをセンターの右へ運ばれると、2番のスクーター・ ジェネットにも高めのストレートをセンター左へツーベースヒットを浴びる。さらに3番のジョナサン・ルクロイには甘く入ったスライダーをセンター前へタイムリーヒットを打たれて、田中はこの回、2点を失う。

 そして、4番のアラミス・ラミレスの時、この試合で田中の抱えていた不安が露呈した。

 第1打席、低めのスプリットに手を出して空振り三振、第2打席では高めのストレートをライト前へクリーンヒットを打っていたラミレスは、この打席、田中のスプリットにどこまでもついてきたのだ。

 カウント2-2から5球目のストレートをファウルにされたあと、キャッチャーのブライアン・マッキャンが田中の間を壊してまでタイムを取り、マウンドへ駆け寄る。そこから4球続けた田中のスプリットに、ラミレスはついてきた。ファウル、ファウル、ファウル、ファウルと、田中の伝家の宝刀はことごとくバットに当てられてしまったのだ。10球目に投げたツーシームでラミレスをショートゴロに打ち取ったものの、ラミレスに粘られたこの場面は、この日の田中の苦しさを象徴していた。それでも試合後、田中はこの打席を振り返って、こう話した。

「今日のスプリットは対応されても仕方がない。自分でいい球だとは思ってないんで……3ボールにしてしまいましたし、あそこはガマン比べで、粘られたというより、僕が粘った感じだと思います」

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