【選抜高校野球】智辯和歌山が使う1200グラムの極重木製バットは高校野球を変えるか? (2ページ目)
それにしても、1200グラムもあるバットを高校球児が振りこなせるものなのか。昨秋、当時1年生だった黒川は秋季近畿大会初戦から極重バットを使い始めたという。
「最初は重くて、『振られへん』と思いました。冬の期間に振れるようにトレーニングして、連ティー(ハイペースで連続して行なうティーバッティング)をやって、インパクトに強さを出してきました」
かつてはハイレベルな速球に力負けしていた黒川だったが、千葉黎明戦では逆方向のレフトへ安打を放ったように進歩を見せている。
「今日は練習どおりのバッティングができました。バットの重さを使って打てるので、長打は打てなくても単打なら確実に打てると感じます」
黒川が練習試合で極重バットを使っていると、相手捕手から「なんでそんなバットを使ってるの?」と不思議がられたこともあったそうだ。
【安くて絶対に折れない利便性】
そして、大谷と黒川が口を揃えたのが、「安くて絶対に折れない」という利便性だった。1本当たり1万円程度の価格で、今まで練習でいくら振っても折れたことがないという。黒川はこう強調する。
「どん詰まりでも先っぽに当たっても、何しても折れないです」
智辯和歌山の塩健一郎部長によると、このバットは中谷監督が導入を勧めたという。
「もともとは監督が楽天で選手だった時に、野村克也監督から『これで打て』と渡されたものだそうです」
大谷、黒川の活躍ぶりを目の当たりにして、塩部長は「生き方っていろいろあるんだなと感じました」としみじみと語った。
「体の細いバッターが細いバットを振り回しても、なかなか飛びません。でも、太いバットならバチッとつかまえられるし、大学以降でも使えるはずです。もちろん、彼らは長い時間をかけてマスターしたので、誰でも打てるわけではないですよ」
昨夏は花田悠月(現・國學院大)が新基準バット導入後初めて甲子園で木製バットによって本塁打を放ち、話題になった。そして今春は極重バットという新たな衝撃をもたらそうとしている。
智辯和歌山の戦術は全国へと広がっていくのか。優勝争いの行方とともに、太くて重い木製バットから放たれる快音が気になってしまう。
著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。
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