学法石川の「三刀流+α」大栄利哉が苦難を乗り越えスケールアップ 打倒・聖光学院、甲子園春夏連続出場を誓う (3ページ目)

  • 田口元義●文 text by Taguchi Genki

 昨年秋の大栄は、4番バッターとして全12試合に出場し打率.435。キャッチャーとしては6人のピッチャーを牽引した。特筆すべきはピッチャーの成績で、チームトップとなる5試合29イニングを投げて防御率0.93と突出した数字を残した。

 キャッチャー兼ピッチャー、そして4番バッター。かくして大栄は、"三刀流"として全国区に名乗りを上げたのである。

「ピッチャーを始めたばかりで怖いもの知らずでしたけど、だんだん怖さが生じていると思うんですね。そこを乗り越えるためには、常時138キロくらいにスピードを上げるとか、全体的に質を上げないと」

 秋の飛躍を踏まえ、佐々木はこのように注文をつけていた。大栄自身も監督の意向を踏まえ、シーズンオフの冬場に充実の時間を過ごせたと胸を張った。

 バッティングは、確実性を高めるためにスイング量を増やす。守備では、東北大会で浮き彫りとなった課題である、キャッチングとブロッキングの精度を高めた。急成長を遂げるピッチャーとしては、9回を投げ切るための体力を養い、カットボールにスプリットと新たな変化球をマスターすることもできた。

 それだけに、2月の強風によって引き起こされた悲劇が悔やまれてならない。

 なんで、俺が──。

 たしかに、そうよぎったことは事実だ。しかし、大栄は「最初はそんな気持ちになったんですけど、落ち込まずにすみました」と語る。

 背景にあったのは、チームの中心メンバーである、上級生の岸波璃空と福尾遥真の存在だった。静養のためひとり部屋に移されていた大栄のもとへ、ふたりが毎日のように顔を出しては「腐らずに頑張れ」と、前向きな言葉を贈り続けてくれていたのだという。

 大栄はリハビリに専念し、そして「出場は難しい」とされていたセンバツの舞台に立つことができた。

 健大高崎(群馬)との初戦。4点を追う9回一死一、二塁のチャンスで、大栄は代打として登場した。結果はサードへのファウルフライだったが、たった1打席でも甲子園でプレーした高揚感は、今も色濃く残る。

「本当にすばらしい球場で、ずっとプレーしていたいなって思わせてくれました。夏は先輩たちと戻ってきて、今度はちゃんとした形でプレーしたいです」

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