派手さはないけど野球の面白さが凝縮 センバツ出場の球児が披露した「これぞ好プレー」3選
春のセンバツは健大高崎の初優勝で幕を下ろした。武運つたなく敗れ去ったチームであっても、甲子園でキラリと光るプレーを見せてくれた選手も多かった。
そこで今回は敗退チームのなかで、勝負勘が冴えわたった選手のワンプレーをピックアップしてみたい。
京都外大西のエース・田中遥音 photo by Ohtomo Yoshiyukiこの記事に関連する写真を見る
【敵将も別格と絶賛した逸材】
京都外大西のエース左腕・田中遥音(はると)は最速137キロと突出したスピードはないものの、バランスのいい投球フォームで試合を組み立てる実力者だ。対戦校の山梨学院・吉田洸二監督は、試合前から田中を「見れば見るほど面白いピッチャー」「投打の軸で、田中くんだけ別格」と絶賛していた。
今大会は新基準バットが導入された影響か、今までよりも長打が見込めなくなった分、スクイズで1点を奪おうと試みるチームも目立っている。山梨学院も田中相手では大量点は見込めないと判断したのか、4回裏にスクイズで同点に追いついている。
ところが、山梨学院が2者連続のスクイズで勝ち越しを狙った場面で、意外なプレーが起きた。マウンドの田中が投じたストレートが右打者の外角へ大きく外れ、バットを差し出しても届かない遠い位置で捕手のミットに収まったのだ。結果、三塁ランナーは憤死し、京都外大西はピンチをしのいでいる。
捕手の下曽山仁(2年)は三塁ランナーがスタートした時も座ったままで、ウエストボールを要求したわけではない。左投手の田中は三塁ランナーが死角になっており、スタートを察知するのも難しい。それでも、田中は打者のバントの構えを見た瞬間に、わざと大きく外れるボール球を投げたように見えた。
試合後に確認すると、田中はやはり意図的なウエストだと認めてこう語った。
「自分はボールをリリースするまでに投げるところを変えられるので。バッターがバントの構えをしたのが見えたので、(下曽山に)『捕ってくれ』と思いながら大きく外しました」
三塁ランナーがスタートをきったことも「気配でわかりました」と田中は語った。拳法の達人のような千里眼だが、捕手の下曽山にも確認すると背景が見えてきた。
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著者プロフィール
菊地高弘 (きくち・たかひろ)
1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。