甲子園で木製バット使用 青森山田2選手のフロンティア精神と浮き彫りになった野球界の課題 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro

 吉川の話を聞いて、「とうとうこんな時代が来たか......」と感慨深いものがあった。新基準バットが導入される以前に、筆者は「バット段位制」というアイデアを考案したことがある。

 柔道の初段になった者が黒帯を締めるように、打撃技術を認められた者は木製バットを使用するというシステムだ。

 当時の金属バットの問題点は、バットの芯以外の部分でも当たれば飛んでしまう、つまり技術が低くても打てる点にあった。一方、木製バットの問題点はバットが折れやすく、経済的負担が増す点と地球環境に優しくない点にあった。

 高校野球に「バット段位制」が導入されれば、ある程度の実力がついた段階で選手は木製バットに移行していくことになる。プロ注目の打者はみな木製バットを使うようになるだろうし、高いレベルを目指す人間なら「金属バットを使うのが恥ずかしい」という感覚になるはずだ。弱小校と言われるチームであっても、木製バットを持って打席に入る打者がいれば「あいつ、有段者だぞ」と一目置かれるかもしれない。

 段位制の是非はともかく、青森山田の對馬と吉川は高校野球界に一石を投じる「ファーストペンギン」になるだろう。

【野球界が抱える課題が浮き彫りに】

 そんななか、あるひとつの疑問が浮かんだ。青森山田の4番打者を務める原田純希は、今大会でも指折りの長距離砲である。對馬と吉川が木製バットを使うなか、原田は新基準バットで試合に出場している。

 ところが、原田は試合後に意外なことを口にした。

「最初は木でいこうと思っていたんですけど、大会前の練習試合で、金属でホームランを打って、金属でいこうと決めました」

 原田もまた、木製バットの使用を検討していたのだ。悩みつつも金属バットを選んだ理由を聞くと、原田はこう答えた。

「やっぱり折れるのが怖い......というのがありました。いっぱいあったらいいと思うんですけど」

 原田が用意した木製バットは1本だけ。一方、對馬は10本、吉川は12本の木製バットを自費購入してセンバツに臨んでいる。吉川はこんな言葉を口にした。

「木のバットを大量に買ってもらったんですけど、親からは『頑張れよ!』と言ってもらえました。自分は結果で恩返ししたいと考えています」

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