奇跡の甲子園から5年、リアル「下剋上球児」たちの今 白山高校はなぜ県大会を勝ち抜けたのか卒業後に出した答え (3ページ目)
【甲子園での思い出は鬼ごっこ】
栗山は甲子園から帰ったあとも頻繁に後輩たちの練習に顔を出し、大学野球に向けて準備していた。それだけに、ドロップアウトしたのは意外だった。栗山はサバサバとした口調で「大学は思ったところと違ったっすね」と振り返った。
高校時代は試合でいくらエラーしようと、「打って取り返せばいい」とポジティブに切り替えられた。だが、大学ではひとつでもエラーをすれば、よってたかってけなされる。栗山は「高校時代の気分では通用しないんやな」と悟った。
1年春のリーグ戦から出場機会を得ていたが、学業不振もたたって秋には中退。現在は岩田や2番・センターだった市川京太郎と同じチームで草野球を楽しんでいる。
栗山に「甲子園で一番の思い出は何か?」と聞いてみた。てっきり大歓声を浴びた遊撃守備を挙げるかと思ったら、意外な答えが返ってきた。
「鬼ごっこっすね。ホテルの駐車場で、みんなで汗だくになって遊んだんです。白山の試合は開幕から1週間くらいあとで、とにかくヒマなんですよ。鬼ごっこを終えたらエレベーターに乗って部屋に戻るんですけど、(同宿の)花咲徳栄の生徒が乗ってきて。彼らはバットを持って素振りをしてるのに、こっちは真剣に鬼ごっこをしていて。かなり気まずかったですね」
一方で、岩田は高校時代の自分を振り返ってこう語っている。
「もっと東先生の期待に応えたかったです」
甲子園にも出られたのに? そう問い返すと、岩田は控えめに笑ってこう答えるのだった。
「みんなに言われるんですよ。東先生がよく『岩田は抑えてほしいところで抑えてくれやん(くれない)。とことん期待を裏切る』って言ってたって。僕もあんなにチャンスをもらったのに、全然恩返しできてないって思うんで」
当時の白山高校で「甲子園」をリアルに思い描いていた部員はひとりもいなかったはずだ。甲子園に出た経験は、自己肯定感の低かった彼らにどんな変化をもたらしたのか。
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