「医師か、プロ野球か」悩めるドラフト候補、三重・高田高校の中山勝暁が心境を吐露 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 おそらく、中山は現段階で野球も学業も確固たる自信を持てていないのだろう。プロ野球選手と医師という職業へのリスペクトから、「生半可な努力ではなれない」という畏れもあるはずだ。その高いハードルを越えるための努力をできているか......と振り返ると、心細くなってしまう。それが中山の抱える悩みの根源なのではないか。文武両道で注目され始めたといっても、その点ではごく普通の「悩める高校生」なのだ。

【センバツ2勝の東邦に勝利】

 一方、チーム内では明確に「将来プロ野球選手になりたい」と宣言する者もいる。主将でチームの中軸・正捕手を任される、藤田輝(ひかる)である。身長171センチと体格的には恵まれていないものの、バットのしなりを生かした打撃力は非凡。稲垣監督は「内面的に文句なし。全幅の信頼を置いています」と賛辞を惜しまない。

 そんな藤田に中山の才能について尋ねると、「嫉妬はあります」ときっぱりと答えた。

「勉強の才能はいいから、野球の部分だけでも『俺にくれよ』と思ってしまいます。『そのボール、俺に投げさせてくれよ』って。今はキャッチャーをやっていますけど、本当ならピッチャーをやりたいので」

 練習で中山と対戦するたび、藤田は「すげぇボールだな」と圧倒されながらも対等に渡り合ってきた。今では練習試合で強豪校と対戦しても、「中山より遅いやん」と感じて優位に立てるようになったという。

 3月11日には、東邦との練習試合に臨んだ。結果的に春のセンバツで2勝を挙げる東海大会チャンピオンを向こうに回して、高田高校は大健闘する。投げては中山が快速球とタテのカーブを武器に5回10奪三振の快投。打っては藤田が逆転サヨナラタイムリーを放ち、6対5で東邦から金星を挙げている。

 中山は「運を使い果たしました」と冗談めかしたものの、甲子園常連校相手に結果を残せたことはひとつ自信になったようだ。

 夏に向けて、中山はこんな決意を口にした。

「みんながやってきたことを出せるようにしたいですね。悔いを残すのが一番ダメなので、ベストを尽くせたと言える夏にしたいです」

 医師を目指すか、プロ野球選手を目指すか。第三者からは「贅沢な悩み」と言われるかもしれない。だが、本人にとっては自分の存在価値のかかった真剣な悩みなのだ。中山勝暁は来たる人生の岐路に向けて悩み、惑いながら歩を進めていく。

プロフィール

  • 菊地高弘

    菊地高弘 (きくち・たかひろ)

    1982年生まれ。野球専門誌『野球小僧』『野球太郎』の編集者を経て、2015年に独立。プレーヤーの目線に立った切り口に定評があり、「菊地選手」名義で上梓した『野球部あるある』(集英社/全3巻)はシリーズ累計13万部のヒット作になった。その他の著書に『オレたちは「ガイジン部隊」なんかじゃない! 野球留学生ものがたり』(インプレス)『巨人ファンはどこへ行ったのか?』(イースト・プレス)『下剋上球児 三重県立白山高校、甲子園までのミラクル』(カンゼン)など多数。

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