2023年のドラフト候補、立命館大・谷脇弘起は変化量、曲がり幅を自在に操る「稀代のスライダー使い」 (2ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 それでも、2回以降は落ち着きを取り戻した。ストレートの球速は140キロ前後ながら、ボールの勢いは明らかによくなっていた。そこへ伝家の宝刀・スライダーが効力を発揮する。終わってみれば7回を投げ、被安打5、奪三振7、与四球1、失点2とゲームメイク。強敵・近畿大から開幕勝利を挙げた。

 試合後、報道陣に囲まれた谷脇は、記者から「立ち上がりは......」と切り出されて「そうっす、そうっす」と被せるように語り始めた。

「初回から全開でいこうと思ったら、空回りしました。いい流れをつくりたい気持ちが大きくて、力んでフォアボールを出してしまいました」

 不本意な投球だったことを自覚していたのだろう。真一文字の太眉をピクリとも動かさずに、谷脇は反省の弁を口にした。

 2回以降は球速こそ出なかったものの、ボールの質はよかったのではないか。そう問うと、谷脇は少し表情をほころばせてこう答えた。

「自分の場合は球速がそんなに出るタイプじゃないんで。ボールの質で勝負したい思いがあって、スピードガンの表示よりも速く見えるのが自分の特徴だと思っています。初回は『力で押したろ』と思いすぎましたけど、2回以降はうまく生かせました」

【高校時代に県大会新記録の66奪三振】

 今や名門大学のエースとはいえ、谷脇が歩んできた道は雑草が生い茂る畦道のようだった。和歌山ビクトリーズに在籍した中学時代は目立つ存在ではなく、強豪私学から誘いがくるレベルではなかった。公立の那賀高で台頭し、3年夏の和歌山大会では準優勝と躍進。6試合で大会新記録となる66奪三振をマークしている。

 当時からストレートの球速は140キロを超えていたものの、相手打者に脅威を与えていたのはスライダーだった。

 三振を奪いにいく時のスライダーは、どんな感覚で投げているのか。谷脇に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「バッターからしたら、バットを振ったあとに『スライダーか』と気づくみたいな。そこは意識しています」

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