希望しかなかった東海大菅生の大器が、絶望を経て再起するまで。甲子園は逃すも元プロ指揮官は「素材は高校生投手でナンバーワン」 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 5月中旬に鈴木の状態を確かめるため東海大菅生を訪ねると、若林監督は不敵な笑みをたたえてこう語った。

「前よりよくなって、凄まじいボールを投げていますよ。まだブルペンですけど140キロ以上のスピードが出ていますし、回転数も多い。郭泰源(元西武)みたいにボールがピューン! と走って、落ちないんです」

 6月19日の大阪桐蔭との練習試合では、5回無失点の好投。チームも10対1と絶対王者に圧勝した。練習試合で完投できるほど体力も回復し、夏の大会はいよいよ鈴木の全開が見られる......という予感が漂っていた。

 だが、現実はそう簡単にはできていなかった。若林監督は言う。

「1年間投げていない投手ですから。暑さも影響していると思います。6月に完投したといっても、公式戦じゃないですから」

 夏の大会では140キロ台後半のストレートを連発するなど、大器の片鱗は見せた。並み居る強敵を退け、決勝戦まで進出した。だが、西東京の打者たちを圧倒するような投球ではなかった。「将来日本を代表する投手に」と大志を掲げる存在としては、少し物足りない内容だった。

 準決勝に勝利した段階で、鈴木に聞いてみた。「自分の持っている力が100だとしたら、今はどれくらい出せていますか?」と。鈴木は少し難しそうな顔をして、こう答えた。

「スピードに関しては60〜70くらい。でも、コントロールとかマウンドでの立ち振る舞いとかすべてを見ると、半分にも満たないと思います」

日大三に無念の敗戦

 7月31日、日大三との決勝戦は5回まで無失点と好投。東海大菅生が2対0とリードを奪っていた。6回表一死二、三塁の場面で鈴木と対戦した川崎広翔は、低めに力強く決まったストレートを見て「このボールは打てないな」と悟ったという。指にかかった146キロが、うなりをあげて捕手のミットを突き上げていた。

 だが、そのボールが続かない。甘く入ったストレートを川崎が捉えると、打球はファーストの左を抜け塁上の走者が2人生還した。その後はスクイズに鈴木の悪送球も絡み、この回4失点のビッグイニングに。さらに7回表には、シュート回転しながら甘いコースに入っていく球を村上太一に捉えられ、2ラン本塁打を被弾。この回限りで鈴木はマウンドを降りた。

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