強肩・強打の「控え捕手」。上武大のドラフト候補は不遇にも負けずたしかな実力と献身力でプロへ着々 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

試合後、控え部員と勝利を喜ぶ小山忍(背番号12)試合後、控え部員と勝利を喜ぶ小山忍(背番号12)この記事に関連する写真を見る

大学選手権後に進路を熟考

 勝負の2022年春のシーズン。プロ志望を明言した小山は、進藤とのポジション争いを勝ち抜きリーグ戦に臨むはずだった。だが、3月に左足を疲労骨折し、戦線離脱。復帰後はリーグ戦で代打出場2試合、捕手、DHとして先発出場1試合ずつと大きなアピールはできなかった。

 5月15日、勝てばリーグ優勝が決まる2位・白鴎大との直接対決でも、小山はベンチスタートだった。「4番・捕手」の進藤が投手陣を好リードし、試合は上武大ペースで進む。4対0とリードして迎えた8回裏、チャンスの場面で小山は代打起用された。

 身長186センチ、体重92キロの大型打者が、鋭くバットを振り抜く。強烈な打球がセンターへと抜け、ランナーがホームに還ってくる。一塁に達した小山は一塁側フェンスに向けて右腕を高々と掲げた。その視線の先には、フェンス外で試合を見守る大勢のメンバー外部員がいた。

「コロナ禍で応援したくても大声を出せないなか、手拍子など工夫して全員で戦ってくれていたので。緊張した時、いつも監督さんから『周りの人に感謝して打席に入れるかだ』と言われています。打てた時は自然とベンチ外のみんなのほうを見ていました」

 控え選手の思いは、誰よりもわかっている。上武大は伝統的にメンバー外の4年生が先頭に立って応援をする。グラウンドに立ちたい思いを押し殺し、チームのために尽くすにはひと言では言い表せない複雑な感情が渦巻くはずだ。

 8対0でリーグ優勝を決めた試合後、礼を終えた上武大の選手たちは一塁側フェンスへと走り、ベンチ外メンバーとハイタッチを繰り返した。誰よりも早く駆けつけたのは、小山だった。

「試合に出ている人も出てない人も、全員勝ちたい思いでやっています。誰が出ても、勝てればそれでいいんです」

 自身の進路については、「チームが日本一を達成することが第一なので、あまり考えていません」と小山は言う。6月6日開幕の大学選手権を終えてから、熟考することになるだろう。

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