驚きの人事異動に「そんなことが起こるのか」。名将が挑む松山商の復活「古豪と言われてもなんの得にもならない」 (4ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 また、主将の西岡には「秋は大野先生の力で勝たせていただいた」という実感がある。中予地区予選で対戦した強敵・松山聖陵戦では、"大野マジック"が炸裂した。試合2日前に内野手の丸山、福積を呼び寄せてブルペン投球を指令。ともに投手経験はあったとはいえ、そのふたりを松山聖陵戦で果敢に投入。9対4で勝利している。

 西岡は「個人の力はまだまだ足りないので、この冬は頑張らないと」と意気込む。そんな折に届いたのが「21世紀枠・愛媛県推薦」という知らせだった。

 大野監督は内心、複雑な感情を抱いていた。

「私は今治西に赴任する前に島の学校(伯方/現・今治西伯方分校)で6年間勤めていました。その時に21世紀枠の制度ができて、過疎化が進む地域の学校にとっては『頑張れば21世紀枠で甲子園に出られる』と大きな希望になりました。ただ、それが松山商に適用されるとなると、ふさわしいかどうかは私にはわかりません」

 そんな思いがある一方で、大野監督は「選手に甲子園を意識させるいいきっかけになるかもしれない」と前向きにとらえた。

 主将の西岡は言う。

「自分たちがやってきた結果を見てもらって推薦してもらえたので、いいほうにとらえてチームをどんどん強くしていきたいです」

【25年ぶりセンバツ出場はならず】

 結果的に、2021年12月10日に発表された21世紀枠地区推薦校には、四国からは高松一(香川)が選出された。松山商は落選し、1996年春以来25年ぶりのセンバツ出場はならなかった。

 だが、松山商の活気ある練習を見ていると、それでよかったのかもしれないと思わずにはいられなかった。

 松山商の選手に聞いてみた。「松山商の伝統を背負って戦っているのか?」と。だが、多くの選手は困ったような顔をして、首を横に振った。ある選手はこう語った。

「昔は昔として、今は自分たちが強くなることしか考えていません」

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