バリバリのドラ1候補に急浮上の大学生左腕。隅田知一郎が頭ひとつ抜けた

  • 菊地高弘●文・写真 text & photo by Kikuchi Takahiro

 これで、頭ひとつ抜けたかもしれない──。

 6月7日、神宮球場のマウンドで投げる隅田知一郎(すみだ・ちひろ)を見て、そんな思いが頭に浮かんできた。

大学野球選手権の上武大戦で14奪三振の好投を見せた西日本工業大・隅田知一郎大学野球選手権の上武大戦で14奪三振の好投を見せた西日本工業大・隅田知一郎 2021年のドラフト戦線は、有望な大学生左腕が多い。筑波大の佐藤隼輔、創価大の鈴木勇斗、法政大の山下輝、関西学院大の黒原拓未。それぞれに長所があるものの、今春時点では突き抜けた存在とは言いがたかった。そんななか、西日本工業大のエース左腕・隅田が全日本大学野球選手権大会で見せたパフォーマンスは鮮烈だった。

 全国大会常連の上武大を相手に、立ち上がりから奪三振ショーを演じる。8イニングを投げて被安打4、奪三振14、与四球1、失点1。試合は0対1で敗れたものの、隅田個人にとっては最高のアピールになった。

「チームが勝つためにああいうピッチングをイメージしていましたけど、あらためてすごい打線だったんだなと感じました」

 大会を終えて九州に戻った隅田は、そんな実感を語った。西日本工業大に勝った上武大は順当に勝ち上がり、東農大北海道との準々決勝では毎回得点でコールド勝ち。準決勝では慶應義塾大に6対10で敗れたものの、終盤まで王者を脅かした。

 全国屈指の強打線を相手に披露した快投だけに、価値が高い。驚くべきは、どの球種でも三振を奪えるだけの精度があったことだ。

 試合後、隅田は「変化球すべてが決め球になるのが自分の持ち味なので」と語っている。この日、使った球種はスライダー、カットボール、チェンジアップ、ツーシーム、スプリット。ストレートを含めて6球種が「決め球」になるのだから、打者は的を絞れない。

 今春のリーグ戦では、あえてスライダーとスプリットを封印して戦っていた。武田啓監督の「スライダー抜きで勝負してもいいんじゃないか?」という助言がきっかけだ。その背景には隅田が抱えていた課題があった。

「スライダーを投げた直後のストレートが課題だったんです。スライダーはボールを内側に切る感じでリリースするのに対して、ストレートはタテに切る感覚でした。でも、感覚の誤差を修正し切れず、スライダーのあとのストレートがシュートしてしまっていて」

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