高校野球の儀礼的なものをなくす。早大の「補欠主将」が聖カタリナで取り組んでいること (5ページ目)

  • 元永知宏●取材・文 text by Motonaga Tomohiro
  • photo by Kyodo News

【全員で粘ってセンバツ出場を!】

 甲子園のない夏が終わり、2020年9月から、翌春のセンバツ出場がかかった秋季大会が始まった。

 愛媛大会準決勝で小松に6対1で勝ち、決勝では松山城南を11対1で下し、四国大会出場を決めた。準々決勝で香川県の高松商業に4対1で競り勝ち、準決勝で同じ愛媛の小松を相手に延長12回でサヨナラ勝ち。決勝では高知県の明徳義塾に1対5で敗れたものの、センバツ出場権を手繰り寄せた。

「四国大会で準優勝できたのは、チーム全員で粘れたから。高松商業戦も小松戦も、点を取り切れずに苦しい展開になりましたが、粘って粘って最後に追いつきました。練習でやってきたことをコツコツとやる。それが信念になって、粘りにつながったんじゃないでしょうか。結果として、粘り勝ちすることができましたね」

 四国の高校野球をリードする明徳義塾には及ばなかったものの、確かな手応えをつかんだ3試合だった。

「決勝戦で明徳義塾と試合ができたことが大きかったですね。甲子園常連校で、全国で上位を狙う高校と緊張感のあるところで戦えたんですから。うちの野球部にとって、すごい財産になりました」
 
【選手たちが歩いた道が歴史になる】

 2016年にできた新興野球部にも少しずつ変化が出てきている。

「チームを立ち上げた時から、『みんなが歩いた道が歴史になるんだ』と言ってきました。2018年の春に四国大会まで出たこと、2019年夏の愛媛大会で準決勝まで勝ち上がったこと、コロナ禍でもくじけず頑張ってくれたこと、2020年の秋季大会で四国準優勝したこと。これまでの土台があったから、春のセンバツに出ることができました。聖カタリナはこれからのチームです。強さのランクでいったら、まだまだ。甲子園で成長させてもらえたらと思います。

 僕は、全体ミーティングの最後に話すのをやめました。選手だけで話し合って、何かを感じてくれればいいので」

 高校野球の練習では、監督の言葉を直立不動で聞く選手の姿をよく見かける。「はい! はい!」と元気よく返事をしているが、どれだけ頭の中に入っているのか疑問が残る。

「どれだけ実になっているかわかりませんね。ただ止まっている時間になってしまっていることが多いんじゃないでしょうか。こちらが一方的に話しても意味がないので、自分たちで考えさせるようにしています。少し変化が出てきました」

 高校野球の指導には儀礼的なものが多く残っている。

「今までのやり方をただ続けるだけでは、生きる力は身につかない。人として強くならない、と考えています。自分の言葉で意見を言える生徒が少しずつ出てきました。彼らの思いを少しでも引き出してやろうと,いろいろなやり方をしています」

 新興チームはこれから成熟していくだろう。監督が強烈なリーダーシップでチームを引っ張るよりも、選手たちの自発的な動きを促す。それが、補欠のキャプテンだった男にふさわしいチームの作り方なのかもしれない。

■元永知宏 著
『補欠のミカタ レギュラーになれなかった甲子園監督の言葉』(徳間書店)
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