公式戦登板1イニングもドラフト候補へ。慶應大左腕は杉田玄白の子孫 (3ページ目)

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

 さらに人体の構造やトレーニング法、ケア法も学んだ。ちなみに、長谷部は江戸時代の蘭学医・杉田玄白の子孫というバックグラウンドを持つが、『解体新書』は読んだことはないという。

 実戦復帰は手術から約1年後、大学3年の秋だった。リーグ戦登板はならなかったものの、10月には最速149キロを計測。今では「体はまったく問題ありません」という状態になっている。

 リーグ戦実績のない長谷部がドラフト候補に浮上した背景には、慶應義塾大の豪華な投手陣がある。ドラフト上位候補に挙がる木澤、佐藤を視察に訪れたスカウトは、慶應義塾大のほかの選手も目にする。

 そこでリリーフとして登板した長谷部が、快速球でスカウト陣にアピールしたのだ。長谷部と同時に復帰した関根も、完成度の高い投球で評価を高めつつある。スカウト陣の目に留まりやすいチームに所属することを、長谷部は「ありがたい環境ですし、生かすも殺すも自分次第」ととらえている。

 大学2年春、現時点で唯一となっているリーグ戦での登板を長谷部はしっかりと記憶している。

 2018年4月14日、東京大との1回戦。慶應義塾大が15対0と大量リードした9回表。勝利は決定的で、本来なら気楽に上がれるはずのマウンドだった。だが、長谷部は普段との勝手の違いを感じていた。

「東大の応援席から(応援曲の)『不死鳥の如く』が流れてきて、すごく緊張したのを覚えています。2アウトからフォアボールを出してしまって、反省の残るマウンドでした」

 この登板を最初で最後にするわけにはいかない。高校時代から4年間も腰痛に苦しんだ男は、その鬱積した思いを発散する日を心待ちにしている。

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