東北の快速右腕は、先輩の巨人・高橋優貴越えもあくなき探究心を持つ
八戸の冬はわりと穏やかだ。本州最北端の地・青森県下北郡大間町から車で2時間ちょっとの距離にありながら、晴天の日が多く、降雪量も少ない。とはいえ、夜になるとさすがに気温も下がり、北風が肌を突き刺すように吹きつける。
そんな厳しい寒さのなか、八戸学院大のブルペンではひとりの投手が黙々と練習を続けていた。
「気温が0度以下の時でも、アイツは平気でボールを投げています。窓ガラスが割れて、冷たい風がピューピュー入ってくるようなところでも、自分が投げると決めたら200球でも250球でも平気で投げる。そんな男です」
八戸学院大の正村公弘監督がそう話す男が、3年の大道温貴(はるき)である。昨年秋は大学ジャパン選考合宿にも召集された本格派右腕だ。
今年秋のドラフト候補・八戸学院大の大道温貴 話は3年前の2017年2月までさかのぼる。新1年生が続々と入寮を果たすこの時期、大道はある目的のために学生寮の入口にある硬式野球部の事務室前にいた。正村監督が振り返る。
「入寮してすぐのことです。春のキャンプに行くまでの約1カ月間、大道は毎日ここに来て、シャドーピッチングをしていました。『オレを見てくれ』と言わんばかりに、毎日やって来て、『監督ちょっといいですか?』って」
入学式もまだ終えていない入寮直後の新1年生である。並みの新人なら環境に慣れるだけでも必死な時期なのに、大道は違った。周囲の目は一切気にせず、ただひたすら自身の成長のためだけに監督のところに通い続けた。
思えば、その半年前に開かれた合同練習会の時もそうだった。練習会が終わると、大道はこう切り出した。
「このままここに残って、練習をしてもいいですか」
見上げた根性のあるヤツだなと、正村監督は感心した。
「だからキャンプにも連れていって、リーグ戦でも投げさせるつもりでいました。大道の気持ちの強さと志の高さを感じたので」
そして正村監督は、入学してまもない大道を春のリーグ戦の開幕投手に抜擢した。教え子をめったに褒めない指揮官も、大道の野球に対する真摯な姿勢に心を動かされたのだ。
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