2019.08.08

星稜・奥川恭伸は完封勝利でも50点。
まだまだ武器を隠し持っている

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Ohtomo Yoshiyuki

 試合直前の囲み取材の最中、ある記者が「最速は158キロ……?」と遠慮がちに尋ねると、奥川恭伸(やすのぶ)は眉ひとつ動かさずに「153です」と訂正した。

 すかさず、「あの『158』という数字は『なかった』ということでいいのですか?」と確認すると、奥川はこちらを真っすぐに見て「はい」とうなずいた。

 7月21日、石川大会3回戦の金沢大付戦に登板した奥川は、石川県立野球場のスピードガンで「158」の数字を点灯させた。しかし、バックネット裏に陣取ったスカウト陣の構えたスピードガンとは全体的に5キロほどの誤差があり、その精度には疑問符がついていた。

旭川大高戦で貫録のピッチングを見せた星稜のエース・奥川恭伸 とはいえ「158」という数字が表示されたのは事実であり、一部では「奥川は158キロを投げた」と報道されている。それでも、本人が「158キロは出ていない」と明確に否定するのは訳がある。それは石川大会では本調子とは言えないほど、奥川の状態が悪かったからだ。

 奥川に石川大会当時の「ボールへの指のかかり具合」を聞くと、「うーん……」とうなってからこう続けた。

「まあ、ベストからは全然ほど遠い、よかったイメージが浮かばないですね」

 奥川は石川大会で24回を投げてチームを優勝に導いたものの、ホームランを3本も浴びている。本人は「ホームランは野球につきものですし、打たれても次のバッターを抑えるために気持ちを切り替えればいい」と語ったが、状態がよければこれほど長打を浴びることは考えにくい。

 甲子園出場を決めて大阪に入ったあとも、状態はなかなか上がらなかった。しかし、試合前日となる8月6日、練習中のブルペン投球で光明が見えたという。

「ブルペンに入って、いい感覚がつかめました。リリースのときに指にボールがかかった感覚が少しずつ出てきているので、その前の2日間に比べると断然よくなってきています」

 旭川大高との試合直前、室内練習場での軽いキャッチボールの段階で「今までと比べるといいな」という感触があったという。甲子園の一塁側ブルペンでも納得のいくボールがあり、「不安がなくなって気持ちが楽になりました」と精神的にも感覚的にもいい状態で試合を迎えられたのだった。