神前俊彦63歳。高校野球に
憑りつかれた男が目指す2度目の甲子園 (5ページ目)
新天地でここまで丸3年が経った。最高成績は2017年春のベスト8で、まだ大きな結果は残せていない。ただ環境は、年々整いつつある。グラウンドの脇にはトレーニング機器が並び、雨天でもダッシュや素振りが可能な屋根付きの通路もできた。大半は、神前の自費でまかなったものだ。また現3年生は、初めて入学から関わった選手たちで、神前の野球が浸透するまでの時間も随分と早くなった。
そんな折、予期せぬアクシデントに見舞われた。今年3月、局地的な豪雨によりグラウンドの三塁側傾斜部分が崩れたのだ。近隣住民は長らくの避難生活を強いられ、現在もグラウンドにはショベルカーが常在。立ち入り禁止は解かれたが、もとから広くないグラウンドはさらに狭くなった。それでも神前は「災害を経験して得たものは大きい」と前を向く。
選手たちは野球ができる喜びを実感し、仲間への思いやりも増した。練習にも工夫が生まれ、集中力もアップ。
そして迎えた京都での4度目の夏。
初戦の相手は鳥羽。夏の甲子園第1回大会の優勝校で、京都屈指の伝統校だ。さらに今春の京都大会でベスト4入りし、夏は堂々のシード校である。いきなりの大一番となったが、試合前、記者から展開の予想を尋ねられた神前はこう言った。
「展開の予想はしないんです。試合は常にイーブンで始まり、投手がストライクを投げ、捕手が二塁送球をしっかりできれば、結果はどう転ぶかわからないのが高校野球。だからウチの選手に対しても、この相手なら抑えてくれるだろう、この投手なら打ってくれるだろうという、安易な期待や予測はしません」
試合はいきなり初回から2失点のスタートとなった。だが中盤からは流れをつかみ、5回表に逆転すると、最後は5対2で勝利。鮮やかな逆転勝利で難敵を破った。
試合後、報道陣の前に現れた神前の第一声は「たまたまですよ。年の功です」だった。この試合で冴えたのは、3人の投手を起用した継投だった。
先発したエースが本来の出来ではないと判断すると、2回頭からスイッチ。背番号10の2番手が試合を落ち着かせると、逆転して迎えた7回裏、二死一、三塁で3番の左打者を迎えた場面で2年生左腕を投入。攻めの継投がズバリとはまった。
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