オリックス中川圭太が最後じゃない。
ふたりのPL戦士が都市対抗で躍動

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • photo by Kikuchi Takahiro

――「最後のPL戦士」は中川じゃない!

 まるで、そんな叫び声が聞こえてくるかのようなプレーぶりだった。

 7月14日の都市対抗野球大会1回戦・ヤマハ(浜松市)対七十七銀行(仙台市)戦。ヤマハの4番打者・前野幹博は、3年ぶりに出場したチームの勝利に貢献した。

都市対抗の初戦で活躍したPL学園出身のヤマハ・前野幹博都市対抗の初戦で活躍したPL学園出身のヤマハ・前野幹博 第1打席では初球を思い切りよく叩いて二塁手のグラブを弾く強烈な打球を放ち(記録は失策)、6回表の第3打席では左中間のヒット性の打球で判断よく二塁に突進して二塁打に。9回表にもスライダーにタイミングを外されながらもうまく拾って、右中間に落ちるヒットを記録した。

 今季はオリックスのドラフト7位ルーキー・中川圭太がセ・パ交流戦で首位打者に輝き、「最後のPL戦士」というキャッチフレーズがメディアを駆け巡った。だが、PL学園出身でまだプロ入りをあきらめていない者もいる。中川の1学年先輩だった前野も、その一人である。

 七十七銀行との試合後、ヤマハの室田信正監督は前野の成長を称えた。

「今年は予選を見にきたスカウトのみなさんからも『前野が変わったね』と言ってもらえるんです。たとえ自分が打てなくても、気持ちを落とすことなくプレーできる。仕草のひとつひとつが変わってきましたよ」

 これまでの前野は毎年のようにドラフト候補に挙がりながらも、もう一押しが足りずにプロ入りを逃し続けてきた。185センチ83キロの体躯からとてつもない大ホームランを飛ばしたかと思えば、タイミングが合わないと実にあっさりと凡退する。不安定な内野守備も足を引っ張り、せっかく類まれなパワーを秘めていても、スカウトの評価は上がってこなかった。

 しかし、高卒6年目を迎えた今年、前野には明らかな変化が見える。前野は言う。

「これまでは自分のことばかりを考えていて、結果も出ませんでした。だから『変わらなアカンな』と、自分でチームを引っ張っていこうと決めたんです」

 具体的に変えたのは「打率を上げることと、声でチームを盛り上げること」だと言う。

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