2019.03.28

初戦敗退の国士舘に起きた悲劇。
エースと主砲が学校行事でまさかの…

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 国士舘と言えば、柔道――。

 それはもはや、学校としてのアイデンティティーになっている。系列の中学、高校、大学を通じて男子柔道部は全国屈指の名門。国士舘高出身の主なOBに斉藤仁、鈴木桂治、石井慧らの金メダリストがいる。

 柔道・剣道の武道が強いイメージがある国士舘高だが、今春は野球部も10年ぶりにセンバツに出場した。昨秋の東京都大会では、圧倒的不利の下馬評を覆(くつがえ)して優勝候補の東海大菅生を破って優勝。久々の甲子園出場に周囲の期待は高まった。

センバツには間に合った黒沢孟朗だが、明石商業戦は無安打に終わった ところが、朗報に沸くチームに暗い影を落としたのは、皮肉にも「柔道」が絡んでいた。1月12日、国士舘高の伝統行事である「武道大会」の日に、主砲とエースが骨折の痛手を負ってしまったのだ。

 武道大会が始まる直前の寒稽古で、1年生(当時)ながら4番打者を務める黒澤孟朗(たろう)が大外刈りを仕掛けるも不発に終わり、返す刀で技を掛けられた。投げられまいと踏ん張ったとき、黒澤は左足首が変な形でねじれたことを感じた。

「最初はショックで、『終わったな……』と思いました」

 救急車で運ばれた黒澤の姿を目の前で見て、山崎晟弥(せいや)は「気をつけよう」と気を引き締めた。山崎は秋の公式戦8試合に投げ、防御率0.77と安定した投球を見せたリリーフエースである。先発右腕の白須仁久(しらす・のりひさ)とともに、チームの浮沈を握る大黒柱だ。

 ところが、武道大会で山崎が相手の襟をつかみ、引っ張ろうとしたとき、右手の薬指が襟に引っかかってしまった。その瞬間、山崎は「ポキッ」という音を聞いたという。

「相手に投げられたとかではなくて、ただ引っ張っただけなんですけど……」

 山崎の薬指には、らせん状に3本の亀裂が走っていた。ギプスで固定して治療すれば、十分にセンバツには間に合う軽傷だった。症状が深刻だったのは黒澤である。左足首の脱臼骨折、靭帯損傷。センバツは絶望的と見られた。