同世代投手に対抗心メラメラ。菰野の岡林勇希が全国区になる日も近い (2ページ目)

  • 菊地高弘●文・写真 text&photo by Kikuchi Takahiro

 菰野の監督を務めるのは、菰野一筋32年の大ベテラン・戸田直光監督である。数々の好投手をプロに輩出してきた戸田監督は、岡林について「このピッチャーがドラフト上位で進めなかったら、自分はどんなピッチャーを育てればいいのかわからなくなるよ」と笑う。それほど岡林の素質を高く買っているのだ。

 好投手を続々と育成する戸田監督には、「軸足でしっかり立つ」など基礎的なメソッドはあるものの、素材のよさを生かす方針が根底にある。だからプロ入りした投手はフォームも体型もバラバラ。それぞれの持ち味を伸ばし、プロへと進んでいる。

 たとえば中日に在籍した関啓扶(けいすけ)は、高校時代に角度の出るフォームへと修正していくうちに、どんどん球速が遅くなる時期があった。戸田監督は悩む関を呼び、内野の塁間のボール回しに加えた。

「何も考えずにガムシャラに投げてみろ」

 そう指示して投げさせると、関は勢いよく助走をつけてから、投球練習時より低いスリークオーターの位置でボールをリリースした。それを見た戸田監督は「お前が一番腕を振れる位置はそこだ」と伝える。関はやがて、多少クセのあるフォームながら最速148キロを計測するまでになる。

 加えて菰野の投手育成の大きな特徴は、投手に過度な負担をかけない管理体制にある。土日の練習試合で連投することはなく、投球練習でも中1日は空けるようにし、ブルペンで投げた球数も記録する。

 この背景には、戸田監督の悔恨の歴史がある。過去にひとりのエースに依存した年があり、そのエースが夏に故障して不完全燃焼に終わったのだ。

「エースがちゃんと投げられないまま負けたのが悔しくて。だから肩・ヒジを痛めないように夏に持っていかないといけないと、今の形になりました。夏の公式戦では多少の連投はさせても、基本的に無理をさせない方針です」

 その結果、菰野には毎年のように最速140キロを超える投手が複数育ち、その評判を聞きつけて好投手が入学する好循環が生まれている。

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