無名捕手→甲子園8強投手へ。
鶴田克樹は「育成からでも這い上がる」

  • 井上幸太●文 text by Inoue Kota
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

「『ここまで4番でやってきたので、夏も貫きたいです』と返事がありました。それに耐えるだけの練習をしてきた自負もあったんだと思います。それと、私の表情から『本当は4番に置きたい』という気持ちを汲み取られたのかもしれませんね(苦笑)。打順を組む上では、当然4番鶴田がベストオーダーでしたから」

 山口大会では投打で遺憾なく実力を発揮し、3季連続の甲子園出場を手繰り寄せた。甲子園では全4試合を完投。山口県勢にとって13年ぶりとなる夏8強進出の原動力となった。

 日々積み重ねた鍛錬と、全国舞台で残した成績。「将来的に行けたら」と考えていたプロの世界に手が届くかもしれない......。そう思わせるには十分だった。

 大学進学が決まっていたが、甲子園終了後の進路相談のなかで、「プロ志望届を提出したい」という思いを坂原に打ち明けた。

「夏を終えて、『可能性があるのなら、そこに懸けて指名を待ちたい』と強く思いました。監督さんから育成の環境、そこからチャンスを掴む難しさについての説明もいただきました。それを踏まえても、『下位、育成からでも這い上がってみせる』という気持ちが強くあります」

 こう力強く語る鶴田の姿には、ギリギリの部員数、雑草だらけのグラウンドで監督生活をスタートさせ、時に周囲から「絶対に無理だ」と笑われながらも、情熱を注ぎ、下関国際を有力校へと成長させた坂原に通ずる"熱さ"があった。

 自分の下を巣立つ"愛弟子"について、坂原は期待を込めてこう語る。

「体型と雰囲気から"剛腕"と見られることも少なくありませんが、彼の最大の武器はきっちりピッチングができるところです。優れた指先の感覚が生む制球力があって、左右それぞれの打者を攻めきれる変化球を持っている。高校時代も"格上"の相手と対戦するなかで持っている能力を開花させたように、高いレベルで揉まれていくなかで、もっと能力が引き出されていく、成長できると思っています」

「ピッチング、野球について何もわかっていなかった。本当にイチから教えていただきました」と振り返る"無名の捕手"から、全国8強投手へと成長を遂げた。高校3年間で手にした確かな自信と指揮官譲りの熱い思いを胸に、運命の「1025日」を待つ。

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