野球が進化すれば道具も変わる。「固定概念」を覆す職人の闘い (2ページ目)

  • 井上幸太●文・撮影 text & photo by Inoue Kota

 こうして、岡山県内の久保田スラッガー取扱店のなかで同社製品の売上1位を記録。他の大手メーカーからも売上に応じて認定される「特約店」に指定されるなど、店の運営は順調だった。しかしながら、藤本にある葛藤が芽生えていた。

「当たり前の話ではありますが、店を運営するにあたって、"売れ筋"の商品を多く並べたほうが売上は上がります。しかし、人気商品のなかにも『売れているが、正直いいとは思えない』ものがある一方で、『あまり知られていないけれども、自信を持ってオススメできる』商品も存在します。そういった、お客さんに知ってほしい、自分が心からオススメできるものを多く店に並べたい、という気持ちが日に日に強くなっていって・・・・・・。売上を確保するには、売れ筋の商品の比率を多くしなければいけないという考えとの間で揺れていました」

 自身のポリシーと売上の板挟みに葛藤していた頃、同じく岡山県内で野球用品店を運営し、自身でグラブブランドも手掛けている鈴木一平(たいら)から「よければ一緒に働かないか」と提案を受ける。こうして、鈴木が運営する「ウィズシー」に所属することとなった。

「鈴木さんの"固定観念"を持たない姿勢に感銘を受けたんです。今までの私は『スポーツ店はこうあるべき、グラブの型はこうあるべき』といったイメージに縛られていました。けれども、鈴木さんにはそういったものが一切ない。この人のもとで働くことで、より成長できるんじゃないか、自分が抱えていた葛藤の答えが出るんじゃないか・・・・・・。そう思って決断しました」

 2014年から鈴木と共に働き、ウィズシー内に工房を構えた。型付け、修理などのグラブ加工だけでなく、かねてから興味のあったオーダーバットの制作にも取り組むようになる。

「もともと木製バットに興味を持っていて、フジモトスポーツ時代にも輸入した海外メーカーのバットを店頭に並べていました。そうすると、『フジモトには色んなバットがある』と地元の大学生たちが来店してくれるようになって。彼らからバットに関する相談も多く受けるようになりました。『このグリップと、違うバットのヘッドを組み合わせたい』、『この型で、もう少し重いものがほしい』といった理想のバットへの思いを聞くなかで、少数からでも作れるオーダーバットのブランドを作れないかな、と考えるようになったんです」

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