逆境でも動じなかった金足農。
糧となった昨年秋の大逆転負け (2ページ目)
秋田県勢103年ぶりの決勝進出を果たした金足農 追いつかれても、勝ち越されなければいい。そう思えるようになったのが彼らの成長であり、焦りを生まなかった大きな要因だ。
「秋の自分らだったらファーストのミスから逆転されていると思います」(大友)
勝負を焦らなかった場面はもうひとつある。 1点リードで迎えた4回裏二死一、三塁での吉田の投球だ。打席には2回戦の奈良大附戦で本塁打、準々決勝の下関国際戦で同点の2点タイムリーを放った高木翔己が入っていた。背番号14ながら、好調さを買われてこの試合でスタメンに抜擢された高木には、2回の第1打席で二塁打を打たれている。
ボール、ストライク、ファウル、ファウルでカウント1-2となった5球目。ここが見せ場だった。高木に対して、なかなか5球目を投げない。投げたのは一塁へのけん制。それを3度も続けた。ようやく投げた球は外角高めに外れるボール球のストレートだったが、高木は思わず手を出してしまった。
「けん制が多いのは嫌でした。早く投げてほしかった。調子がよかったので、どんどん投げてくれれば打てる自信があった。あそこでタイミングをずらされてしまった。そこでクイックで投げてきたので立ち遅れしてしまいました」(高木)
打者をじらす巧みな投球術で空振り三振。同点にされることなく、常にリードを保つことで日大三に流れを渡さなかった。
苦しい場面は誰もが早く終わりたいもの。それが投げ急ぎになったり、ストライクを揃えすぎたりすることにつながるのだが、吉田にはまるでそれがなかった。
準々決勝までの4試合で615球。この試合でも134球を投げながら、だ。
「(吉田は)冷静だよね。もうちょっと慌ててくれたらねぇ」
敵将の小倉全由(まさよし)監督の言葉がすべてを物語っていた。
急がず、ゆっくり時間を使った吉田が、秋田県勢103年ぶりの決勝進出をつかみとった。
◆2ランスクイズでサヨナラ負け。近江が悔やむ心のスキに予兆があった>>
◆100回大会は目玉不足から豊作へ。ドラフト上位候補は6人いる>>
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