監督はコンビニ経営者。別海高は「乳しぼりができる甲子園球児」を目指す (3ページ目)

  • 安倍昌彦●文 text by Abe Masahiko

 郡司とバッテリーを組むエースの山中涼(3年/右投右打)はこの春、球速が140キロに届いたという。山中が別海について、こんな面白い話を聞かせてくれた。

「牛の数が人口の1000倍って......実はそこまで多くなくて、人口1万人に対し、牛が10万頭ぐらい。お年寄りが多いんですが、若い人とも協力し合って暮らしているから、この酪農の町が成り立っているように思います」

 山中とともに別海高のマウンドを守るのが、富崎脩斗(2年/右投右打)と西川瑠恩(りゅうおん/1年/左投左打)。」

 富崎はどっしりとしたフォームから両サイドに投げ分ける制球力のよさが魅力で、西川は1年生とは思えないボールの伸びが特長の左腕だ。夏の大会に向けて抱負を聞くと、こんな答えが返ってきた。

「いつも面倒をかけている親のため、監督のため、そして別海の町民のために勝ちたい」(富崎)

「入学したばかりなのに試合で投げさせてもらって、いつも先輩たちには迷惑をかけてしまっているんで、この夏は先輩たちに恩返しできるようなピッチングをしたいです」(西川)

 選手たちのモチベーションになっているのは、いつも世話になっている"誰かのため"という思い。生まれ育った土地に根ざした、すごく自然でありのままの"願い"なのが気持ちいい。島影監督が言う。

「いつも選手たちに言っていることがあって、『野球で別海をひっくり返してやれ!』と。町の人たちがびっくりするようなことを、野球でやってやろうじゃないかってね。地元の人が喜んでくれる。地元の人たちと一緒に喜べるのが高校野球だと思うんです」

 島影監督は教職員ではない。本業は、学校から10キロほど離れた西春別(にししゅんべつ)という町でコンビニエンスストアを経営している。24時間営業ではないが、それでも朝6時の開店に備え、早朝3時に起きて、その大きな手を真っ赤に染めながら、店の人気商品である"大きなおにぎり"を100個以上握る。

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