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大学選手権で唯一の国立・広島大は、
なんで全国大会に出るほど強いのか (3ページ目)

  • 井上幸太●文・写真 text&photo by Inoue kota

 加えて藤田は、エースの成長が投手陣全体に好影響を及ぼしたと分析する。

「投手陣のなかで一番熱心に勉強していたのが中田でした。『結果を残しているエースがあれだけやっているんだから、自分たちもやらなきゃ』という意識が、投手陣全体に芽生えたのは間違いありません」

 野手担当の服巻が続ける。

「大学生は『考えるから成長する』年代だと思っています。用意された練習をこなすだけでなく、『自分に必要なものは何か』と常に考えていく。そうすることで、成長できるんじゃないかと......」

 広島大は、広島六大学リーグ加盟校唯一の国立大。野球部専用グラウンドは生物生産学部の研究施設に隣接しており、同学部が管理する動物に影響を及ぼすとの理由でナイター設備が使えない。

 日没後は、奥にあるサッカーグラウンドから差し込むわずかな光を頼りに練習することもしばしばだ。限られた練習環境などから "打倒・私学"の反骨心に満ちているのではないか――。勝手にそう思い込んでいたが、選手たちは「私立にしかできないこともあると思いますが、逆に自分たちにしかできないこともある」と、極めて自然体だ。主将の國政は言う。

「たしかに、相手の私立大には甲子園経験者や強豪校出身の選手が多く、全体の層も厚い。ただ、1試合のなか"9イニングでの実力差"だけを考えると、そこまで差はないと思っています。相手個々の能力を前面に押し出した野球をするなら、こっちは分析に基づいた"考える野球"で対抗する。そうすることで必要以上に怖さを感じることなく戦えていると思います」

 二塁を守る副主将の西岡大輝(4年)が、こう付け加える。

「自分たちが入学したときの4年生も力があって、私立大と互角に渡り合う姿を見てきたので『手も足も出ない』というイメージはありませんでした。各々が考えて、練習に取り組むなかで成長した部分も実感できましたし、そこに自信が持てたことも大きかったです」

 春季リーグ終了後に学生コーチ兼トレーナーに転身し、選手とは異なる形でチームを支える道を選んだ刀根隆広(とね・たかひろ/3年)は、大学選手権に臨むにあたり、「リーグ全体を盛り上げるきっかけにしたい」と力を込める。

「全国で勝利を挙げて、リーグ全体のレベルアップにつながるようにしたい。出場校唯一の国立大として注目してもらっているので、ここで結果を出せば『やるな!』と思ってもらえるはず。そうすることで、リーグ内の他大学も『負けてられない』と火がつけば、広島六大学がもっと存在感のあるリーグになると思っています」

 今大会でも着用する水色を基調としたユニフォームは、1973年に大学選手権初出場を果たしたときに使用していた"強い広大"を象徴するデザインでもある。一時期は別デザインを採用していたが、OBの強い要請があり、2013年秋のリーグ戦から"復刻"した。

 そのユニフォームに身を包み、神宮を踏みしめた初出場時の主将・野々村直通氏(島根・開星高前監督)は、後輩が成し遂げた快挙を喜び、こう激励する。

「エースを中心にしぶとく接戦を勝ち抜く"広大の野球"で優勝してくれたのが嬉しいね。全国では、どうしても色気が出てしまうものだけど、積み上げた"自分たちの野球"を貫くことが大切。『すべてを出し切ってやる!』という気持ちで強豪にぶつかってほしい」

 先輩からの激励に呼応するように、エース中田「相手の東北福祉大は格上。食らいついてゲームをつくる」と語れば、主将の國政も「必要以上に相手を恐れることはせず、リーグ戦で磨いてきた野球で勝負する」と力を込める。

「相手にしかできないこともあれば、自分たちにしかできないこともある」

 この思いを胸に、それぞれのやるべきことに打ち込んできた広島大の選手たち。培ってきたスタイルを貫き、悲願の初勝利を狙う。

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