バットを刀のように。花咲徳栄の「サムライ」西川愛也が放つ必殺打撃

  • 菊地高弘●文 text by Kikuchi Takahiro
  • 大友良行●写真 photo by Ohtomo Yoshiyuki

 これは誇張表現でもなんでもなく、花咲徳栄の3番打者・西川愛也(にしかわ・まなや)は「サムライ」である。

 埼玉大会の試合後、西川が見せたある動作について聞いてみた。「サムライを意識しているのですか?」と。すると西川は「はい」と首肯(しゅこう)した。「ルーティンにしているんです」と。

埼玉大会では打率5割、4本塁打と甲子園出場の立役者となった西川愛也埼玉大会では打率5割、4本塁打と甲子園出場の立役者となった西川愛也 西川は打席に入って足場を固めた後、左手でバットの先端を順手で握り、そこからバットを引き抜いて先端を投手に向ける。この動作が、まるで鞘(さや)から刀を引き抜いているように見えたのだ。クールで黙々と努力を重ねる職人気質の西川だけに、このようなパフォーマンスを人知れずしていたことは意外だった。

「岩井(隆)先生に『ルーティンを大事にしなさい』と言われて、2年の夏から始めました。刀を抜くようにバットを手から抜いて『打てるんだ』と言い聞かせるんです」

 冗談混じりに「剣豪のイメージ?」と聞くと、西川は真顔でうなずいた。決して生半可な気持ちでやっているのではないことが伝わってきた。

 かねてより、なぜ西川はいとも簡単にヒットを打てるのだろう? と不思議に思っていた。技術だけでは説明しきれない、「何か」を感じたまま、消化できずにいた。西川の話を聞いて、その謎がひとつ解けたような気がした。この選手は打席でルーティンに入った瞬間、本気でサムライの世界に入り込んでいるのだろう。

「打席のなかでフォームのことを考えていたら絶対に打てません。考えずに、来たボールに反応するだけです」

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