引退する西郷泰之の25年「プロに行けなかったからこそ今がある」 (4ページ目)

  • 中里浩章●文 text by Nakasato Hiroaki
  • 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

―― 具体的に言うと、その基本形というのはどういうものなのでしょう。

「理想としては、向かってくるものに対して素直にその方向へ返してあげるということです。投手が投げてきたボールを、すべて投手の方向に返していく。2人1組で軽く放ってもらって、そのボールを打ってワンバウンドで返す練習ってどこのチームでもやりますよね。それはなぜかと考えたら、やっぱり打撃の基本だからなのかなと。センターに返したりバックスクリーンに入れたりするのも、その練習の延長線上にあると思うんですよね」

―― 30代でも活躍を続けられた背景には、そうした感覚を身につけたことがあったんですね。年齢を重ねていくにつれ、衰えのようなものを感じることはありましたか。

「自分では分からないんですけど、周りには分かるんでしょうね(苦笑)。40歳近くになってからは、相手投手がみんなストレートでグイグイ押してくるんですよ。自分の中では『とらえられる』って思っているんですが、少し差し込まれたりするようになった。そういう意味では、反応スピードや体のキレなどは鈍くなっていったのかなと思います」

―― そうしたなかで都市対抗の通算本塁打記録に並んだわけですが、どのように対応してきたのでしょうか。

「ストレート中心で攻められることは分かっているので、それを打つためにどうすればいいかを考えました。近い距離からマシンにボールを入れてもらってスピード感覚を体の中に呼び起こしたり、バットを少し重くして振ってみたり。ただ、それでも差し込まれることは増えましたから、衰えはあったんだと思います。もちろん自分自身、打てないボールはないと思っているので、認めたくはないです。でも、本当に若いときのように打てているのであれば引退はしないわけですし、はたから見て『もう終わり』って感じるくらいなんだなと。僕も昔はベテラン選手に対して『オッサン、もうキツそうだなぁ』って思っていたので、今の若手も僕を見てそう思っていたんじゃないですかね(笑)」

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