【自転車】片山右京「チームを束ねる、という難しさ」 (3ページ目)

  • 西村章●構成・文 text by Nishimura Akira 甲斐啓二郎●写真 photo by Kai Keijiro

 難しいのは、改善や協議とはいっても、言葉の説明で必ずしも相手にすべてが通じるわけではないし、だからといって、言葉にしなければそもそも理解の俎上(そじょう)にも載せられない、という自家撞着(じかどうちゃく)のような事実だ。

「スタートは言葉だけど、言葉ってのはあくまでもツール(道具)だから、必ずしも言葉で信頼を勝ち取れるものでもないじゃないですか。本当に相手の信頼を得るには、言葉じゃない部分がモノいう――ということだってある。でも、中にはずっと自分の内側に溜めっぱなしにしている人もいるから、そういう人の場合は1回、言葉にして吐き出させてあげないといけない。じゃあそのやり方が正しいのかというと、あまり風通しが良すぎるとかえってダメになるところもある。だから、物事には100パーセント正しいものはないんですよね」

 ことほど左様に、人を率いる立場は難しく、その悩みも尽きることがない。

 特にこの時期、片山を悩ませるのは、選手やスタッフの移籍や離脱、獲得などに関する交渉……、要するに契約や人事にかかわる意思決定だ。こればかりは、自分自身が現役時代に経験しなかった種類の苦労で、いまだに慣れることができないと苦笑する。

 今シーズンが始まる前にも、片山は契約を終了する選手に対し、その旨(むね)を通告することの辛さを口にしていた。来シーズンに向けた準備を進めている現在も、1年前と同じようなことを話している。

「プロスポーツの世界にそういう厳しい面があるのは厳然たる事実で、それを当然のこととして冷静に受け止めてくれるプロフェッショナリズムに徹した選手がいる一方で、なかなかそうはいかない場合もある。そこはやはり人間同士だから、プロとはいいながらも、ビジネスだけでは済まされない。ヒューマンな関係がミルフィーユのように積み重なって(笑)、ややこしくなる部分がどうしてもあるんですよ」

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