【新車のツボ103】
ホンダS660試乗レポート (2ページ目)
実際、スミズミまで貫かれた勢いは、S660に乗ればすぐに体感できる。とにかく軽らしくないのだ。専用新開発の6速MTもシフトフィールは世界でも指折りの気持ち良さ。また、第99回のスズキ・アルトターボRSでも書いたが、軽は大きな凹凸を高速で乗り越えたときなどにどうしても軽っぽさがただようものだが、S660はアルトターボRSに輪をかけてガッチリとしなやかである。
前後重量配分がいいミドシップは、曲がりはじめれば確かに軽快だが、フロント周辺が軽いために、曲がりはじまるまでが鈍くなりがち。アマチュアドライバーに「クルクルと面白いように曲がるミドシップらしい走り」を味わわせるのは、じつはけっこう難しい。
しかし、S660はフロントエンジン車しか経験のないアマチュアが普通に運転するだけで、シュンシュン曲がって、しかも限界が高くて超安全。こういう味わいはポルシェ・ケイマン(第28回参照)にも通じる最新市販ミドシップのツボを見事に突いている。
S660のカタログを眺めていると、軽にはレーシングカーもかくやの超ハイグリップタイヤや、走行中にブレーキを電子制御する"アジャイルハンドリングコントロール"など、軽らしからぬ贅沢装備が満載だ。「もっと簡単につくれば、もっと安くなったのに」とツッコミたくもなるが、S660の乗り手の技量を問わないミドシップ感には、こういう装備のひとつとつがドンピシャのツボ効果を発揮していることに納得させられてしまう。
S660は軽なのに、2人しか乗れないのに、オープンルーフは簡素な脱着式でしかないのに約200万円。絶対的には安くないが、この内容や生産台数を考えると「これで利益が出るのか?」と勝手に心配になるくらい割安。
また、S660には「税金で優遇される軽なのに、スポーツカーなんて遊びグルマは本末転倒」というお堅い批判もなくはない。ただ、こんな世界的にもレアで素晴らしいデキのミドシップスポーツカーが、新車でコミコミ250万円くらいで手に入るのも軽だから。
大衆スポーツカーは歴史的に、いかに低コストで楽しいクルマを提供するかに知恵を絞ってきた。だから、S660もまた、あえて軽であることがツボ。つまりは生活の知恵である。
【スペック】
ホンダS660 α
全長×全幅×全高:3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車両重量:830kg
エンジン:直列3気筒DOHCターボ・658cc
最高出力:64ps/6000rpm
最大トルク:104Nm/2600rpm
変速機:6MT
JC08モード燃費:21.2km/L
乗車定員:2名
車両本体価格:218万円
著者プロフィール
佐野弘宗 (さの・ひろむね)
1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/
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