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【新車のツボ103】
ホンダS660試乗レポート

  • 佐野弘宗+Sano Hiromune+●取材・文・写真 text&photo by

 新しい軽自動車(以下、軽)のスポーツカー、ホンダS660が大人気である。

 S660は4月初旬に発売されるも、あまりの人気で5月には受注を一時停止。6月には受注を再開予定だが、運よく6月にオーダーできたとしても、納車は早くて年明け、場合によっては来年夏になってしまう可能性もあるという。S660の月間生産台数は800台。ハンドメイドの部分が多いので大幅な増産はできず、しばらくは争奪戦が繰り広げられそうだ。

 S660は軽のスポーツカーであること自体が貴重だが、エンジンを運転席の直後・リアタイヤの前に置く"ミドシップ"というレイアウトを採用したのが超レアである。現時点で入手可能な国産スポーツカーにミドシップはS660以外になく、世界を見わたしても比較的手ごろ(といっても1千万円を切る......というレベル)なミドシップスポーツカーはポルシェやロータスくらい。あとは数千万円級のスーパーカーばかりだ。

 ミドシップは車体のど真ん中にエンジンを置くので、前後重量バランスという"運動性能の素性"では理想形のひとつだが、人間や荷物のスペースがすこぶる取りにくい。実際、S660でも乗車定員は2人で、しかも小さなハンドバッグすら置く場所がない。ハッキリいって実用性は下の下。走ること以外の用途は、まったく考えられていない(笑)。

 S660は20~30歳代のエンジニアたちを、歴代タイプRやかつてのF1エンジンなどを担当したベテラン猛者エンジニアの数名がサポートする形で開発された。こうした平均年齢の若い開発体制はホンダでも初という。

 というわけで、S660はほとんど専用品のカタマリである。まあ、ミドシップでオープンカー......という商品企画なので、ボディ骨格が専用なのは当然としても、サスペンションからブレーキ、シートにタイヤ、はてはステアリングホイールまで、普通に考えれば既存のホンダ軽から流用してしかるべき部分まで、いちいち専用。こうした「だれがなんといおうと、オレはこういうのが欲しい!」という、空気(=コストや生産性)を読まない若々しさが、S660最大の魅力といっていい。

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著者プロフィール

  • 佐野弘宗

    佐野弘宗 (さの・ひろむね)

    1968年生まれ。新潟県出身。自動車評論家。上智大学を卒業後、㈱ネコ・パブリッシングに入社。『Car MAGAZINE』編集部を経て、フリーに。現在、『Car MAGAZINE』『モーターファン別冊』『ENGINE』『週刊プレイボーイ』『web CG』など、専門誌・一般紙・WEBを問わず幅広く活躍中。http://monkey-pro.com/

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