世界記録よりもメダルを。競歩・鈴木雄介選手がこだわる調整の極意 (2ページ目)

photo by Tsukida Junphoto by Tsukida Jun 今回、鈴木選手にお話を聞いてどきっとしたのは、「全力を出すのはダメなんです」という言葉でした。

 私は「アスリートは試合で全力を出しきるもの」と思っていたので、鈴木選手の「僕は本気になったらダメなんです」という言葉に、私の頭の上には無数のクエスチョンマークが。

 その疑問は、競歩という種目の特徴を理解することで解けました。そもそも、競歩は体の動きに制限がある種目なので、パワーやスタミナだけの勝負ではありません。歩く技術の高さやフォームの正確さが重要になります。だからこそ、鈴木選手はフルパワーではなく、冷静さを保って、適切な力でレースをするのだと思います。

 3月に世界記録を出した時、途中で「これなら絶対に出せる」と思ったという鈴木選手。そのときも、フルパワーを出さず、冷静さを失わずに一歩一歩を確実に歩いた結果が、世界記録更新につながったのでしょう。

 もうひとつ驚いたのは、鈴木選手が「世界記録はもう過去のこと」と言っていたことです。「地球上で最も速く歩く人」のみに与えられる世界記録保持者という称号。私には想像もつかないほど嬉しいものだと予想していたのですが、鈴木選手の最大の目標は、あくまでも「世界大会で一番いい色のメダルを獲ること」だと言うのです。

 メダルは子どもの頃の運動会の徒競走1等賞と同じように、誰かから「おめでとう」という言葉とともに目に見える形でもらえる記念品。表彰式は小さな自信が芽生えてくる瞬間だと思いますし、家族や友人に対して感謝を伝えられる瞬間でもあります。

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