女性アスリートの新たな道を切り拓く寺川綾選手 (2ページ目)

「決勝の前、準決勝を2位通過したミッシー・フランクリン(アメリカ)は、30分前に200m自由形の準決勝を泳いだばかりで疲れが残っている様子でした。そこに、優勝候補のエミリー・シーボーン(オーストラリア)が、『大丈夫?』と言って彼女にスポーツドリンクを手渡していた。それを見て、『五輪という大舞台で、他の選手を気づかえるなんてすごい!』と感激しました」と言います。

 ふたりはそれぞれの国を代表して、決勝でメダルを争う敵同士。しかも4年に一度の五輪という大舞台であれば、自分のことに集中して周囲への気づかいをする余裕はなかなかないはず。でも、世界のトップで常に争っている選手同士には、お互いに「共に戦う仲間」という絆のようなものがあるのでしょう。

photo by Yamamoto Raitaphoto by Yamamoto Raita 寺川選手は、お互いを気づかえるトップ選手のそんな姿を目の当たりにして、これまでとは違う世界に触れ、競技生活への意識に変化が出てきたのだと思います。そして、五輪の銅メダルを獲得したことで、自分もそんなトップ選手の仲間入りをしたのだと実感し、「もっといろんなものを見てみたい」と、新たなモチベーションがわき上がってきているのではないでしょうか。

 また、ロンドン五輪後の寺川選手はゆったりと大きな気持ちで試合に臨んでいるように感じます。レースの時の表情を見ていても、とても余裕があるし、観客席に気さくに手を振ったりもしています。今年の日本選手権やジャパンオープンでも気負いはまったくなく、自分から若手選手へ声をかけ、気づかう姿も見られました。それに、圧勝して日本記録を出しても、その結果に一喜一憂することなく、しっかりと世界水泳を見つめている印象です。

 試合後のインタビューでも「自己記録を更新できたのは嬉しいけど、それよりも大事な舞台がありますから」と話していたのは、世界水泳で「(100m背泳ぎで)58秒台前半のタイムを出して優勝したい」という明確な目標を持っているからだと思います。

 ロンドン五輪まではメダルのことは口にせず、「集大成として、自分が納得できる泳ぎをしたい」と話していた寺川選手ですが、最近は「優勝したい」とハッキリ口にするようになりました。それはとても大きな変化でした。やはり、ロンドン五輪で、狙った種目でメダルを獲れたことが本当に大きいのだと思います。

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