ニューバランスが、ランニングシューズの流れを変えた (5ページ目)

  • 取材・文/輔老心 text by Suketake Shin
  • 撮影/村上庄吾 photo by Murakami Shogo

 再び風向きが変わったのが、2010年。きっかけは、ハーバード大学の進化生物学者・ダニエル・リーバーマン教授が「ベアフット(裸足)・ランニング理論」を提唱したことだった。

 リーバーマンの言う主旨は、「ケニアのランナーはかかとが厚い靴を履いたりしない。もともと裸足やサンダルで走る彼らは、かかとから着地する走りを経験しないまま大人になり、留学してクッションが効いた靴を履いても、フラットな走りのままだ。人間は裸足で走って、次に薄っぺらい靴で走って、600万年かけていまの足を作ってきた。ランニングブーム以降に開発されたシューズは、人の足の機能発達を止めているのではないか」というもの。

 たしかに、どんな人もプールサイドを裸足で走るときは、かかとからガンガン着地したりはしない。コンクリートが痛いからだ。

 ちょうどその頃、“走る民族”として知られるメキシコのタラウマラ族のランニングライフを紹介した書籍『Born to run』が世界300万部のベストセラーになっていたこともあり、ベアフット・ランニング理論の影響はすぐに広まっていった。

 長谷川教授は思った。「そらみたことか。僕たちのアイデアは早すぎた。モーターショーのコンセプトカーみたいなものを、数年前にすでに作ってしまっていたんだ」

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