「起業」を官民あげて促すのはなぜか。高校の野球部生徒が社会の流れやその現状を学ぶ (3ページ目)
【起業が少ないのはお金だけの問題か】
奥野「残念ながら、これが少し頼りない。大学基金の規模で言うと、ハーバード大学が約4.5兆円、イエール大学が約3.3兆円、スタンフォード大学が約3.1兆円であるのに比べ、日本だと慶応義塾大学が約730億円、早稲田大学が約300億円、東京大学が約150億円というように、ケタが2つも違うんだ。
日本の国立大学における40歳未満の任期なしポストは、2010年の1万1000人からずっと低下傾向をたどって、2017年には5800人になっちゃったし、こうした将来のポスト不安から、修士課程卒業者に占める博士課程進学者の割合は、2000年の17%から、2018年には9%まで低下してしまっている。結果、TOP10%(引用される数が多い)論文数は、1996-1998年の4位から、2016-2018年には一気に11位まで下がっているんだ。
こうした状況に対する危機感から、大学ファンドが立ち上がったのだけれども、ひとつ僕が思うのは、こうした支援がなければ、大学発ベンチャーって立ち上がらないのだろうか、という疑問なんだ。
大学ファンドも大学における研究促進支援の一環だから、将来的にはそこからベンチャー企業が立ち上がる可能性は、十分にある。それは確かに望ましいことなのだけれども、果たしてお金だけの問題なのかなって、ちょっと思うんだよ。
本当にチャレンジしてみたいって思っている人は、国からの支援があろうと、なかろうと、チャレンジするんじゃないだろうか。それよりも一番の問題は、起業して失敗した時に、なかなか再起できない風潮が、日本社会に蔓延していることなのではないだろうか。
たとえば大手商社に内定をもらえるような、できる人間が、就職ではなく起業を選び、経営に失敗した時、恐らく周りの人は「あいつ、大手商社の内定を蹴って起業して、失敗したらしい」などと噂するだろうし、銀行は一度、経営に失敗した人に対して融資しないだろうし、恐らく大手商社はそこで活躍できるだけの実力を持った人物でも、自分の会社を破綻させたという理由で雇おうとしないでしょ。
これでは、なかなか怖くて起業なんてできないんじゃないかな。補助金を配るくらいなら、起業に失敗したとしても再チャレンジできるようなセーフティネットをつくることのほうが大事だと思うんだ」
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