「起業」を官民あげて促すのはなぜか。高校の野球部生徒が社会の流れやその現状を学ぶ (4ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

【日本は失業率が低すぎる?】

鈴木「確かに、そう言われると起業するよりも大企業に入ったほうが安全かも」
由紀「でも、ベンチャー企業が次々に出てきて大きくなっていかないと、経済も世の中も活性化しませんよね」

奥野「日本には上場企業が3700社くらいあるんだけど、大きな倒産ってほとんどないんだ。でも、本当に旧態依然とした、古い企業がそのまま残っている。これが米国だったら、とっくの昔に淘汰されて、新しい企業にどんどん置き換わっていくのだけれども、日本ではそういう新陳代謝が起こらない。

 なぜかというと、雇用を守るために会社を倒産させないよう、国がさまざまな形で補助金の類を出しているからなんだ。実際、日本の失業率って世界的にも低くて、2022年12月でも2.5%なんだけど、8~10%くらいあってもいい。

 もちろん失業したら給料が入らなくなるから、それで失業者が亡くなってしまうといった状況は避けなければならないし、そのためのセーフティネットは必要なんだけど、雇用を守るために国が助けるのはおかしい。そんなことを続けていたら、いつまで経ってもこの国には新陳代謝が起こらない。

 由紀さんの意見に対する極論の答えとしては、上場している大企業が普通に倒産するようにすればいい。そうすれば、『大企業に入れれば一生安泰』などと言って、大企業への就職を目指す人は減るだろうし、どのみち潰れるリスクがあるなら、自分の手で大勢の人から『ありがとう』をもらえるように、起業して頑張ろうと考える人が増えるかもしれない。

 いずれにしても、大企業一辺倒の考え方を変えるのと同時に、失敗を恐れずに済むようなセーフティネットを構築する。そうすれば自然と、起業にチャレンジする人が増えていくんじゃないかな」

【profile】
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は4000億を突破。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』『投資家の思考法』など。

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