カタールW杯にも見える世界の経済成長。日本が相対的に貧しくなっているのはなぜか (2ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

1994年と同じ水準の日本

奥野「所得が減ったわけではないから、絶対的に貧しくなったわけではないのだけれども、他の国が成長しているので、この30年間、ほぼゼロ成長の日本は、世界に追いついていけなくなった。つまり、相対的に貧しくなった、ということだね。

 しかも、このランキングは2021年の数字でしょ。2021年末のドル/円が1ドル=115円前後で、今はご存じのように1ドル=150円に瞬間タッチしたところまで急激に円安が進んだから、ドル換算した日本人ひとりあたりの国民所得は、もっと下がっていると思うよ。

 1ドル=115円で3万9301ドルだとすると、円換算した所得は451万9615円。円建ての所得が変わらないとして、これを1ドル=150円でドル建てに計算し直すと、3万130ドルになってしまう。2021年の27位にとどまっていられるかどうか、ちょっと微妙かもしれないね」

鈴木「どうして他の国ではひとりあたり国民所得が増えているのに、日本だけ1994年と変わらないのかな」
由紀「うちのお父さん、52歳で部長なんだけど、『昔の部長のほうがお金持ってたよなー』って嘆いてた(笑)」。

奥野「このランキングで上位に入っている国をざっと見ると、傾向としては人口の少ない国であるのとともに、付加価値の高い産業を持っているという感じかな。

 ルクセンブルグやアイルランド、スイスは金融、ノルウェーは石油・天然ガス生産、シンガポールは観光や金融などに力を入れているんだけど、いずれも少ない人数で大きく稼げるビジネスってところがミソだよね。つまり高い生産性と、高い付加価値を持った企業がたくさんあるんだ。

 これらに対して日本はどうなのかというと、もちろん付加価値の高いビジネスを持っている企業もあるにはあるんだけど、どうしてもモノづくりの国から脱することができないのが現状で、アメリカのようにたくさんの知財を持ち、実際の製造はコストの安い新興国にやらせるというような、いわゆる先進国型のビジネスモデルが着実に育たないまま、今に至っている。

 モノづくりも大事なんだけど、製造コストを考えれば、日本よりもASEAN諸国のような新興国のほうが安くできるわけだから、日本は価格競争で負けてしまう。しかも、作っているもの自体の付加価値が低いので、どうしても価格競争に巻き込まれやすくなってしまう。結果、所得は伸びず、由紀さんのお父さんのように、『昔の部長はもっと給料がよかった』と嘆くことになるってわけ。

 それともうひとつ、日本人の国民所得が増えない大きな理由があるんだ。わかるかい?」

鈴木「日本人が怠け者になったから」
由紀「お金儲けがヘタだから」

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