カタールW杯にも見える世界の経済成長。日本が相対的に貧しくなっているのはなぜか (4ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

奥野「まあ、これは正直、日本には先進国であり続けてほしいと願っている私としては、非常に残念なことなのだけれども、この円安が持続されるなら、ひょっとしたら日本は新興国的発展を遂げる可能性がある。

 まず『スペイン化する日本』。スペインって以前、私も行ったことがあるんだけど、基本的に観光ぐらいしか産業がない。バルセロナのサクラダファミリアをはじめ、世界的に超有名な観光地があって、そこに外国人観光客が大挙して押し寄せている。

 日本も同じだよね。京都や鎌倉だけでなく、日本のいろいろなところに観光名所があって、それは日本の非常に長い歴史によって培われたものだから、他の国にはない付加価値がある。しかも、この円安によってレストランなどでの食事はめちゃくちゃ安いし、治安もいい。外国人、特にアメリカからの観光客にとっては、もう嬉しい限りだよね。

 それから、この円安と、さっき由紀さんが言ったけれども、日本人の賃金って世界的に見て安くなってしまったから、モノの生産拠点として見直される可能性が高まってきているんだ。実際、台湾のTSMCという、世界最大の半導体受託メーカーが、ソニーと共同出資で熊本県の菊陽町に新工場を造るんだけど、この手の動きが今後、加速してくる可能性があるだろうね。

 そうなれば、再び日本が新興国的発展を遂げる可能性があるんだけど、結局、それは戦後77年を経て、日本は先進国の仲間入りが果たせなかったということ。やっぱり複雑な気持ちだよね」

【profile】
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は4000億を突破。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』『投資家の思考法』など。

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