プロ野球選手がチームを渡り歩くのは悪なのか。移籍に対する反応にも表れる日米の「個と組織」の違い (4ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

 でも、日本にはそこまで大きな差異がないでしょ。最近は格差問題がよく言われるけれども、アメリカに比べれば可愛いものだし、能力も平均的にそこそこ高い。ほぼ無宗教だし、肌の色もほぼ同じ。そんなわけで、ある組織に集っている人たちが、皆で力を合わせて、その組織のために頑張ろうという意識が、アメリカに比べて強いんじゃないかな」

由紀「でも、もっと好待遇が得られるなら、どんどん転職したほうがいいと思うんですけど」
鈴木「何か、ずーっと同じところにとどまっていたほうがいい理由でもあるのかな」

奥野「もうひとつ、経済的な側面で言うと、たとえば退職金のような制度が、人材の流動化を邪魔しているとも言えるかもね。皆、退職金が欲しくて定年まで組織にしがみつくようなところがあるんだけれども、退職金って、別に長年、組織に忠誠を尽くしてくれたご褒美でも何でもなくて、単に『今、働いてもらっているけれども、その報酬の一部は20年後、30年後にまとめて払いますからね』という話なんだ。

 だから、本当に人材を流動化させたいのであれば、大企業を中心にして退職金制度をなくしてしまえばいい。その分を現役の給料に上乗せする。そうすればどんどん人は動き出すようになるはずだし、組織の閉塞感もなくなるし、多様性がどんどん広がっていくと思うんだよね。

 もちろん組織としては、優秀な人材を引き留めておくために、待遇面も含めてさまざまなインセンティブを設ける必要はあるんだけれども、そうなれば組織と個人は対等になれるだろうし、それでこそ先進国の企業と言えるようになるんじゃないかな」

【profile】
奥野一成(おくの・かずしげ)
農林中金バリューインベストメンツ株式会社(NVIC) 常務取締役兼最高投資責任者(CIO)。京都大学法学部卒、ロンドンビジネススクール・ファイナンス学修士(Master in Finance)修了。1992年日本長期信用銀行入行。長銀証券、UBS証券を経て2003年に農林中央金庫入庫。2014年から現職。バフェットの投資哲学に通ずる「長期厳選投資」を実践する日本では稀有なパイオニア。その投資哲学で高い運用実績を上げ続け、機関投資家向けファンドの運用総額は4000億を突破。更に多くの日本人を豊かにするために、機関投資家向けの巨大ファンドを「おおぶね」として個人にも開放している。著書に『教養としての投資』『先生、お金持ちになるにはどうしたらいいですか?』『投資家の思考法』など。

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