プロ野球選手がチームを渡り歩くのは悪なのか。移籍に対する反応にも表れる日米の「個と組織」の違い (3ページ目)

  • 鈴木雅光●構成 text by Suzuki Masamitsu
  • はまのゆか●絵 illustration by Hamano Yuka

人材の流動化が進まない日本

奥野「まあ、ジーター選手の場合は、強豪のニューヨーク・ヤンキースに所属していたから、『そんなところに埋もれていてもったいない』という声はなかったのかもしれないけど、大谷選手が所属しているエンゼルスはなかなか優勝しにくい球団だから、メディアやファンが『もったいない』と言う気持ちは、わからないこともないけどね。

 だから、大谷選手に『二刀流』を認めてくれて、活躍の場を与えてくれたエンゼルスへの感謝の気持ちがあるにせよ、より強い他球団に移籍したところで、少なくともそれをとやかく言うような声は、おそらく出てこないだろうね。

 移籍をして高額の報酬を手にした選手に対して、日本だと『裏切り者』的な言われ方をされてしまうことがある。そんなことを言っているから、日本社会はいつまで経っても閉塞感が拭い去れないんだけどね」

鈴木「その閉塞感のある社会って、イヤーな感じがする。僕らもいつか社会に出て働くわけですし」
由紀「やっぱり私、留学しようかなー」

奥野「日本の大企業を見ていると、人材の流動化がまったく進んでいないことに気づくんだ。特に大手企業になるほど、その傾向は顕著だね。自動車、家電のような、かつての日本を代表する大企業、あるいは電力会社のように規制によって守られている企業になると、なおのことそれがひどくなる。

 よほどのことがないと潰れないし、そこで働いている人も、『潰れないんだったら、今より待遇が悪くなるリスクを冒してまで転職する必要はない』って思うだろうし、それなら組織に忠誠を尽くしている(ふりをしていた)ほうが、自分も居心地がいい、と。

 こうしてどんどん組織が凝り固まっていくのだけれども、そのなかに、本当にごく少数だけれども、めちゃくちゃ優秀な人がいて、そういう人がより好条件で他社に転職したりすると、『日本人らしい美徳が失われた』などと言って批判するのだから、もうどうしようもない。

 この問題の根底にあるのは、おそらく日本人に多様性が欠けていることかもしれないね。これは言い方がとても難しいのだけれども、アメリカは移民の国だから、人によって生まれつき肌の色や宗教、政治信条は違うし、貧富の差が激しくて、かつ能力にも絶望的な差があったりする。

3 / 4

厳選ピックアップ

キーワード

このページのトップに戻る